石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/11

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(31)勝負の綾

投稿日時:2014/11/11(火) 08:02

 9日の関大戦は神戸ユニバー記念競技場。その昔(具体的には1985年8月、日航機が群馬県の御巣鷹山で墜落し、乗客520人が亡くなられた年である)、神戸で開かれたユニバーシアード大会のメーン競技場になった競技場である。その大会で僕は、朝日新聞取材班のキャップを務めていたため、ずっとこの競技場に通った。懐かしく、思い出深い場所だが、最近はもっぱらファイターズの応援が中心だ。
 9日は、試合が始まる頃からずっと小雨が降り続き、思わず雨の中で行われた1昨年の関大戦を思い出しながらの観戦となった。
 ファイターズのキックで試合開始。相手陣25ヤードから関大の攻撃が始まる。いきなり8ヤードのパス。次はランでダウンを更新。かさにかかったように相手は2回続けてパスを投じたが、ともにDB国吉と田中がうまくカバーし、パスは不成功。なんとか相手の攻撃をしのいだ。
 ところがファイターズの攻撃がぎこちない。QB斎藤からWR木下へのパスで1度はダウンを更新したが、急所のパスがつながらない。簡単にパントで相手に攻撃権を渡してしまう。
 最初のシリーズのパス攻撃で餌をまいた関大は次のシリーズ、今度は目先を変えて得意のQBスクランブルで40ヤード、25ヤードと陣地を進める。あっというまにゴール前14ヤード。ここはLB作道と山岸が立て続けにロスタックルを決め、何とかフィールドゴールによる3点で食い止めたが、ファンにとっては前途多難を感じる立ち上がりだった。
 しかし、グラウンドの選手たちはそういうマイナス思考には陥っていない。ファイターズ陣14ヤードから始まった次の攻撃シリーズは、ファイターズがとっておきのプレーを連発。斎藤からRB鷺野への短いパスやRB橋本の豪走で陣地を進める。途中、斎藤からハンドオフされたボールを鷺野が斎藤にバックパス、それを斎藤が相手陣深く走り込んだWR横山にパスするというトリッキーなプレーを盛り込んで一気に相手ゴールに迫る。ここでも橋本が相手をなぎ倒すような走りでダウンを更新、最後は鷺野が3ヤードを走り込んでTD。K三輪のキックも決まって7-3と逆転する。
 しかし、関大のラン攻撃も強力だ。QBのスクランブルとRBのラッシュを組み合わせてぐいぐいと陣地を進めてくる。ランばかりで44ヤードを前進し、あっという間にゴール前23ヤード。これはやばいぞ、と思った瞬間、DL安田とLB山岸が連続して見事なタックルを決め、相手の勢いを止めた。
 第4ダウン残り13ヤード、ボールはゴール前25ヤード。さてどうするか。
 フィールドゴールの狙える位置だが、関大が選択したのはパントの隊形。当然フェイクプレーが考えられる。案の定、ホールダーがボールを受けてパスを狙う。しかし、ターゲットが見つからず、フェイクプレーは失敗。得点は7-3のまま、攻撃権はファイターズに移る。
 その攻撃シリーズをファイターズは鷺野、橋本のランと斎藤からWR木戸へのパス、斎藤のスクランブルなど、次々と目先を変えるプレー選択で前進させ、仕上げは橋本が2ヤードを走り込んでTD。三輪のキックも決まって14-3。試合の主導権を握った。
 振り返れば、相手がゴール前25ヤード付近からフィールドゴールを狙わず、思い切ったフェイクプレーに出たところに勝負の綾があった。さらにいえば、そういう「勝負せざるを得ない」状況を作り出した2年生の安田と山岸の思い切ったタックルが試合の分岐点になったといってもよい。
 得意のラン攻撃でぐいぐいと陣地を進めてくる関大。それをぎりぎりのところで食い止め、相手が犯したちょっとした判断の乱れを逆手にとって、一気に追加点に結び付けたファイターズの攻撃。
 振り返れば、2年前の雨の中の試合でも、似たような場面があった。前半終了まで2分少々、得点は0-0。相手陣49ヤードという場面で迎えたファイターズの攻撃。ちょうど雨が小降りになったのを見極めたベンチが審判団に、それまでのゴムボールから皮のボールに交換を要求。投げやすいゴムボールを手にしたQB畑がWR梅本、大園、木戸、小山にポンポンとパスを決めてダウンを更新、あっという間にゴール前に迫り、最後は畑が中央ダイブのフェイクから左オープンに走ってTD。均衡を破って、そのまま勝利につなげた。
 雨のユニバー競技場。互いに持ち味は異なるが、戦力は拮抗したライバルとの戦い。ミスした方が負け、というきわどい試合で、ファイターズは今年も「勝負の綾」となる場面をしのいで勝利をもぎ取った。試合展開や17-10という試合結果を見れば、辛勝というしかないが、それでもこういう勝負への執着心、我慢強さがある限り道は開ける。
 関西リーグ最終節は、立命との決戦。ともに無敗で迎えるライバルとの試合を前に、詰めるべき点を詰め、思い残すことのなくなるまで練習をやりきって、決戦に臨んでほしい。関大との戦いで見せた我慢強さと勝利への強い気持ちをもう一度見せてほしい。

(30)外科医の本

投稿日時:2014/11/03(月) 22:32

 この3連休は関西学院の大学祭。その準備に充てるということで、先週金曜日は上ヶ原のキャンパスは休講。自称「カリスマ講師」として文章表現を教えている僕の授業もお休みである。
 しかし、本業の新聞社で急ぎの仕事があり、日本新聞協会から依頼されていた原稿の締め切りも迫っていたので西宮の自宅には帰らず、紀州・田辺で原稿書きに追われていた。
 当然、練習は見にいけない。いつも、練習や試合を見て、コラムの材料を探している僕にとっては、とても困ったことである。だからといって、シーズンが佳境に入っているのに、応援コラムを書かないというのも気が利かない。どうしようか、と考えたときにひらめいた。東京で弁護士事務所を開いている友人が「面白いから」といって送ってくれた2冊の本を素材に書いてみよう、と。
 著者は、京都大学肝胆膵移植外科・臓器移植医療部准教授、海道利実さん。最初の1冊は『もし大学病院の外科医がビジネス書を読んだら』(中外医学社)、2冊目は『外科医の外科医による外科医以外にもためになる学会発表12カ条』である。
 どちらも、僕にとっては本屋さんでは「絶対に買わない」本である。医学、それも臓器移植の現場から発せられる専門書の棚を見ることだってあり得ない。小学校低学年の頃から本を読むのが大好きで、親から買ってもらった童話や偉人の伝記はもちろん、親戚のおじさんが読み終えた「野球界」や「ベースボールマガジン」から家にあった「家の光」(わが家は専業農家でした)、さらには吉川英治の「宮本武蔵」全6巻まで、片っ端から読んできた僕でも、臓器移植の最先端にいる人の話に挑戦しようなんて無謀なことは考えない。
 ところが、送ってくれた人が、もう30年近く仲よくしている聡明な弁護士。彼女の推薦なら読むしかない、とチャレンジしてみたら、これが面白かった。ファイターズの諸君にもお裾分けしたいような言葉がいっぱい引用されていた。
 前後の脈絡を抜きにして紹介すると、こんな名言が並んでいる。「成功する秘訣は、創意工夫を365日続けることだ」(京セラ創業者、稲盛和夫氏)「エリートはできない理由を100でも考える。できる理由を一つでも考えてみよ」(元伊藤忠会長・元中国大使、丹羽宇一郎氏)。
 ふたつの言葉はそのまま、ファイターズの活動にも言えることだ。困難な相手に365日、ずっと戦術を考え、創意と工夫で相手を上回ることで活路を開く。あるいはまた「偏差値の高いやつはまず、言い訳から入る。あれは出来ない、これは失敗する可能性がある」と。当たり前だ。どんな戦術でも、失敗の確率がゼロなんてことはない。自分で限界を設けて何もしないヤツはいらない。それより「出来る理由」を一つでも考え、そこから突破口を開いていく。そういうヤツがほしい。そのチャレンジ精神。そこから事態は打開できるのだ。
 ゲキを飛ばすだけではない。失敗した人には、松下幸之助氏の部下にかけた言葉が用意されている。「君、心配せんでいい。それより、志をなくしたらあかんで」
 表現の仕方は180度異なるが、この言葉は、あの有名なスティーブ・ジョブズ氏の「パッション(情熱)を持つ人のみが世界を変えられる」という言葉に呼応している。そう、志をなくさないこと。パッションを持つこと。チャレンジする気持ちを失わない限り、人は死なない。世界を変えることも出来る。
 チャレンジということでいえば、2冊目の本には阪急・東宝グループの創業者であり、鉄道事業のビジネスモデルや宝塚歌劇を作り上げた小林一三氏のこんな言葉を紹介している。「下足番を命じられたら、日本1の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にはしておかぬ」。チームの中で一人一人が果たすべき役割の大切さと、それをやり遂げる意志の重要性を説いている。これもまた、ファイターズというチームを運営していく上で、欠かせぬ視点ではないか。
 そして最後が、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏に星陵高校の恩師、山下智茂監督が贈ったという言葉が紹介されている。
 「心が変われば行動が変わる。
 行動が変われば習慣が変わる。
 習慣が変われば人格が変わる。
 人格が変われば運命が変わる」
 (元はヒンズー教の言葉とも、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズの言葉ともいわれているそうだ)
 そういうことだ。今度の日曜日には関大、そして次の節には立命館。ライバルとの戦いに備えて、今がまさに胸突き八丁ともいうべき時である。ファイターズの諸君には、高い志を持ち、挑戦者の気持ちを持ち続け、気力を振り絞ってがんばってほしい。遠く紀州・田辺の地から声援を送る。
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