石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2011/6

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(11)「野球の神様がくれたもの」

投稿日時:2011/06/16(木) 15:53

 先週日曜日の明治大学戦も観戦できず。東京まで出かけるのが億劫だ、という気持ちが半分、当日、紀州・田辺で開かれた陶芸家、出口清廣さんの「文部科学大臣賞受賞」を祝う集まりに出席したいという気持ちが半分。双方を足し算すると「観戦ツアーは見送り」という結論になったのである。
 従って、当日はパソコンを開いて、ホームページの実況速報に集中、その断片的な情報を基に試合展開に想像を巡らせるしかなかった。日頃、関西で行われる試合に足を運ぶことがかなわず、インターネットを通じてファイターズの試合ぶりに一喜一憂されているファンの方々の気持ちはこういうものかと想像し、それにしても丁寧な速報よ、と会場で入力を担当されている方々に感謝した次第である。
 そういうわけで、今週のコラムは試合の話はパス。代わりに桑田真澄氏の書かれた「野球の神様がくれたもの」(ポプラ社)について話をしたい。
 桑田さんの話は、以前(2007年6月19日)、このコラムで書いたことがある。朝日新聞日曜版の「一流を育てる」という連載で、彼が師と仰ぐ甲野善紀さんとの関わりを3回(2002年10月19日、26日、11月2日)にわたって紹介したこともある。スポーツが大好きだったのに、社会部畑で育ち、スポーツの取材には縁の薄かった僕にとっては、親しく取材をさせていただいた数少ないプロ野球選手の一人である。
 彼はこの本の中で「野球がうまくなるために必要な考え方を聞いてほしい」といって、こんな発言をしている。
 ……野球選手がうまくなるために必要なのは、トレーニング、食事、休息の三つのバランスだ。多くの選手やコーチはたくさん練習すればそれだけうまくなると思っている。でも、本当は練習の量だけでなく質を高めていかなくてはいけない。そして練習した分だけ栄養を摂取する必要がある。身体が栄養分を消化、吸収したり、疲労物質を代謝するためには休養の時間もとらなければならない。
 ……うまくなる選手に共通するのは「早寝早起き」だという(中略)親や監督からいわれて無理矢理そうするのではなく、自分から率先してやってもらいたい。自主的に行動することで自分ならではの小さな成功体験を積み重ねてほしいからだ。
 ……もう一つ、若い選手たちに伝えたいのは野球、勉強、遊びのバランスをとってほしいということだ。ほとんどの野球選手はグラウンドではボールに食らいつく。でも野球から離れた時でも努力できる選手は決して多くない。これはとてももったいない(中略)長年プロ野球で活躍する一流の選手に共通するのは頭がよいということだ(中略)分析力や観察力、洞察力を養うのに一番手っ取り早いのは、実は学校の勉強だ。若いアマチュア選手はグラウンドで努力するだけでなく、学校ではしっかり授業を聞き、家に帰ったらしっかり休息をとる方が野球が早く上達する。
 そして、この章の最後には、遊びの重要性を説く。「野球は勝負を競うのだから、厳しさは絶対に大事だ。でも日本の野球界にはエンジョイメント、楽しむという態度が決定的に欠けている。しかし、スポーツは本来、楽しくやるものだ。心の中で楽しいと思えないまま野球をしていても努力を続けることは難しい」「チームメートと心を一つにして戦おうと思えば、恐怖心が勇気となり、挑戦しようという前向きな気持ちでプレーできる。味方と気持ちを一つにするためには、普段から相手の気持ちや考え方を理解しておかなければならない。そのために有効なのが遊びだ。遊びを通して相手の気持ちを知る勉強をしてほしいと思う」
 高校野球で頂点を極め、日本のプロ野球界でも一流投手として名声をほしいままにし、さらには40歳を目前にしてメジャーリーグのマウンドを踏んだ彼が、その豊富な体験から説くトレーニング、食事、休息のバランス。野球と勉強、遊びのバランスの強調。野球をアメフットに置き換えれば、そのままファイターズの諸君にも通じる話だと思う。
 ただ、誤解してはいけないのは、彼は三つのバランスが必要と強調しているのであって、トレーニングがいやだから休息が必要といったり、練習がしんどいから遊びに逃げるとかいうようなことは一切いっていない。野球も勉強も遊びもそれぞれに意味がある。だからそれぞれ大事にしなさい、といっているのである。ここを間違えないようにしていただきたい。
 彼はこの本のあとがきにも「がんばるプロセスが大事です。失敗しても挫折を味わっても、そこから立ち上がって前に進むプロセスを楽しんでください」と書いている。「失敗しても、挫折を味わっても、そこから立ち上がって前に進む」。この言葉にこそ、彼の考えのすべてが言い尽くされているのである。
 ファイターズの諸君にもこの言葉を送りたい。

(10)糧になる試合

投稿日時:2011/06/09(木) 17:13

 先週日曜日、王子スタジアムであった慶応との試合は、近来になく面白かった。
 一番の理由は、相手がファイターズをしっかり研究し、自分たちの強みを存分に発揮して戦ってくれたことだろう。それを受けて、ファイターズの面々も、懸命に戦った。双方が全力を出し切ってぶつかるから、一つ一つの場面が盛り上がり、試合そのものも白熱する。勝敗もプレーの成否も超えて、終始、すがすがしい風が吹き渡るような試合だった。
 ファイターズのキックで試合開始。最初の攻撃権を握った慶応は、QB徳島のスクランブルでリズムをつかみ、立て続けにダウン更新。あっという間にハーフラインを超えてきた。ここはDLの踏ん張りでなんとかしのいだが、続くファイターズの攻撃はなすところなく終了。再び攻撃権を手にした慶応は、QBのキープやRBの切れ味のよいランで再びフィールドゴール圏内まで攻め込む。
 ここでファイターズ守備陣が奮起。DL梶原、LB坂本が立て続けにロスタックルを浴びせ、仕上げはDL池永のパントブロック。相手陣41ヤードでファイターズが攻撃権を奪回する。
 この好機に、QB畑がWR森本に16ヤードのパスを通し、残り25ヤード。ここでRB野々垣が右オープンを駆け上がってTD。一度走り出したら止まらないスピードと素早いカットバックで、ファンを魅了する。K大西のキックも決まって7-0。
 その後しばらくは、両軍ともに決め手を欠き、パントの応酬となったが、前半終了間際に慶応が開き直ったようなランプレーで活路を開く。RB小平、QB徳島らが切れのよい走りを連発。ファイターズ守備陣を翻弄してTDに持ち込む。同点で前半終了。「恐るべし、慶応」「とんでもないスピード」という声が観客席のあちこちから聞こえてくる。
 後半はファイターズのレシーブで試合再開。このシリーズはRB望月、坪谷のラン、畑からWR小山、木戸らへのパスなどで陣地を進め、最後はK大西のフィールドゴール。
 3Q終了直前、自陣44ヤードから始まったファイターズの攻撃も野々垣、望月のラン、WR梅本、森本へのパスで着実に陣地を進め、4Q1分36秒、畑から梅本への7ヤードのパスが決まりTD。リードを10点差に広げる。4Qに入って、ようやく試合が落ち着いてきたと思ったが、慶応が本領を発揮したのはここから。
 ファイターズがフィールドゴールを失敗して、自陣20ヤードから始まった慶応の攻撃。短いパスと切れのよいランを織り交ぜ、次々とダウンを更新して、あっという間にファイターズのゴール前5ヤードに攻め込む。ここはDB香山が相手パスをゴール前でインターセプトし、逆に50ヤードをリターンしてしのいだが、慶応の勢いは止まらない。残り時間1分54秒。再び自陣10ヤードから攻撃を開始し、わずか9プレーでTD。17-14と追い上げる。
 しかし、ファイターズも慌てない。攻撃権の継続を狙った相手のオンサイドキックを確実にキャッチし、敵陣49ヤードで攻撃権を確保。ここから野々垣のラン、畑から梅本、WR大園へのパスで陣地を進め、仕上げは大園への21ヤードパス。残り6秒で坪谷が中央に飛び込みTD。
 最終的に24-14のスコアになったが、試合内容は全く互角。獲得ヤードもファイターズが290ヤード、慶応は289ヤードと拮抗している。松岡主将が試合後のインタビューで「前半の7-7が本当の両軍の力」といっていた通り、互いに力を出し合い、しのぎあった48分だった。いや、慶応27分2秒、ファイターズ20分58秒という攻撃時間を見れば、ファイターズが押しまくられていたという印象を持たれた方も多いだろう。
 それほど、慶応の戦いぶりはすばらしかった。久々のファイターズ相手の戦いということで、チームとして、しっかり準備がされていたのだろう。守備陣の的確な動きに、それは随所にうかがえた。
 それより何より、攻撃の小気味よさ。スピードのある徳島、パスの得意な須藤という二人のQBを的確に使い分け、それにスピードのあるRBが加わってプレーに変化をつける。今季、これまでの試合では、そのスピードで相手を翻弄してきたファイターズの守備陣が、逆に翻弄され、太刀打ちできない場面が何度も見られた。「こんなチームがあったのか」と、ファイターズの諸君も驚いたに違いない。
 試合後、顔を合わせた選手やコーチ陣は、異口同音にその驚きを表現していた。久しぶりに対戦した慶応は、それほど新鮮なチームだった。
 けれども、関西にはQBが走り回るチームが少なくない。立命館はもとより、関大も京大も毎年、走力のあるQBを擁して多彩なランプレーを展開してくる。そういう相手と戦う上で、「QBが走りまくった」この日の慶応との試合は、何よりの経験になったはずだ。これからしっかり対策を立て、秋に備えれば、この試合の値打ちはさらに輝きを増す。試合経験はすべて、選手の糧になり薬になるのである。
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