石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2009/6

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(10)新任コーチが見た景色

投稿日時:2009/06/08(月) 16:48

 今年のファイターズで、一番変わったことは何か。
 もちろん、学年が新たになり、選手の顔ぶれは一新された。1年生にも有望なメンバーがたくさん入ってきた。けがで苦しんでいた上級生が練習に復帰し、みんなとグラウンドで練習できるようにもなっている。
 それはしかし、毎年、年度が変わるたびに繰り返されていることである。
 そういうことではなく、もっと根本的なところで劇的に変わったことがある。フルタイムのコーチとして、新たに大村和輝氏(1994年卒)が就任したことである。彼が毎日、グラウンドに顔を出すようになって、いろんなことが変わったことを実感する。
 ファイターズにはこれまで、1日中、選手につきあってくれるコーチはいなかった。
 鳥内監督には早朝の家業があり、専任コーチはトレーニング担当の油谷コーチ以外は全員、大学の職員として、重責を担って活躍しており、グラウンドに出てくるのは、毎日の仕事が一区切りついてからになる。朝からファイターズのために時間の使えるコーチはいなかった。
 ライバルと目される強豪チームがそれぞれ、豊富なコーチングスタッフを抱えているのと比べると、部外者には想像できないほどお寒い状況だったのである。毎年、日本一を争う強力なチームがこうした環境からつくられることは、ある意味で感嘆すべきことだが、いつまでも、その状況を放置しておけないことはいうまでもない。フルタイムのプロコーチを招くのは、チームの悲願だった。
 では、大村コーチが就任して、何が変わったのか。それはおいおい、このコラムでも書かせていただくつもりだが、その前に、大村コーチの目に映ったファイターズの風景とはどんなものだったのか。インタビューをもとに紹介したい。
 ――ファイターズに戻って、最初に感じられたことは。
 練習内容が昔と変わっていることにびっくりしました。私たちの時代には大事にされていたことが大事にされていないのです。ひとつは、最後までやりきることがやりきれていない。私たちは「ラストを終わる」といって、最後をきちっと締めくくることが徹底されていましたが、いまはそれがユルくなっている。にもかかわらず、部員同士でそういう状況について、厳しく要求しあわなくなっている。そのユルい空気に驚きました。
 練習メニューはこなしているのですが、それを何のためにやるのか、という焦点がぼけている。なのに、その点をきちんと指導できる4年生が少ない。一番いけないパターンですね。気合を入れろという上級生はいるけど、具体的に何をどうしたらいいのか、ということが指摘できていない。分からなければ考え、試行錯誤をしながらもがけばいいのに、そこまでやる上級生がいない。具体的な指摘ができないから練習メニューをこなしても、それが上達に結びつかないのです。
 ――練習時間はどうですか。
 短いですね。週に3回練習して、週に3回の筋力トレーニング。全体練習も60分から70分。それにキッキングの練習が加わるだけですから。だからこそ練習前、練習後の時間が大事になるのに、それが十分に利用できていない。取り組みがユルいのです。下手やのに、なんでもっと練習せえへんのん、下手すぎるやろ、と歯がゆくなります。
 それと、試合を意識するというか、勝つための練習ができていない。まじめにトレーニングはするのですが、その成果を試合に生かし切れていないのです。
 ――指導にあたって注意していることは。
 根本的なことは「最後までやりきること」ですね。すべてのプレーを最後まで「フィニッシュ」すること。どういうフィニッシュをするかについて選手と話す過程で、選手自身のプレーのイメージが必要になってきます。これは着任してすぐ、新谷(主将)に指摘しました。いまは劇的に改善されています。
 もう一つは「言い過ぎないこと」です。でも、これは難しい。4年生がきちんとみんなに指摘し、要求できるようになればいいのですが、それまでは私がいうしかない。いまは毎日、私が担当しているWRとOLの4年生を部屋に呼んでミーティングをし、ビデオを見ながら細かいことまで指摘しています。
 ――フルタイムの指導ということですが、どんな日課ですか。
 毎朝、9時半ごろに大学に来て、前日の練習ビデオを見直します。練習ビデオは毎晩、寝る前に見ていますが、それを朝、もう一度見るのです。11時ごろからWRの4年生とミーティング。それを半時間ほどで切り上げて、引き続きOLの4年生とまたミーティングです。ビデオを見ながら細かい所まで注意するので、時間がかかります。
 その後、昼飯を食べて、監督と簡単な打ち合わせをしたり、時にはミーティングをしたりしした後、3時にはグラウンドに出ます。8時ごろまで練習し、簡単なミーティングをして帰宅は9時ごろ。休みはチームがオフの日だけです。
 ――最後に、いまのチームに望むことは。
 学生がどれだけ本気で勝ちたいと思えるようにするか、ですね。アメリカのように「コーチが絶対」というのではなく、関学はあくまで学生が主体になって強いチームを作ってきました。人間教育という部分についてのアプローチでも、このチームは優れています。それを尊重しながら、プロのコーチとしてどうかかわれるか、毎日が試行錯誤です。
 でも、選手は徐々に変わってきています。パフォーマンスも上がってきています。下級生にも、明らかにうまくなってきているメンバーがいます。まだまだレベルは低いし、物足りないし、寒い試合が続いています。試合でも結果が出ていません。けれども、個々の選手が「オレがやったんねん」という気持ちになれば、一気に伸びますよ。基本的に、みんな真面目なヤツですから。泥臭く練習していけば、可能性は十分にあると思っています。
 ――ありがとうございました。

(9)冷酷な現実

投稿日時:2009/06/02(火) 17:40

 2度あることは3度ある、とはいかなかった。5月30日のアサヒ飲料チャレンジャーズ戦のことである。
 5月に入ってから組まれた日大と京大の試合は、ともに攻守とも相手に主導権を握られ、圧倒された。試合そのものは何とか勝つことができたが、スタンドから見ていても、勝てたのが不思議なくらいだった。相手がここぞというときに決め手を逃してくれたからだろう。
 しかし、この日の相手は違った。立ち上がりから容赦なくファイターズに襲いかかり、攻守ともに力の差を見せつけた。攻めてはファイターズのラインを押しまくり、QB井川が次々と余裕のパスを決める。あれよあれよという間に先制のTD。続けて、2本目のTDも簡単に決める。
 守っても、和久や石田を中心にした1列目がファイターズOLを圧倒、力とスピードでラインをずたずたに引き裂いていく。ファイターズは、攻めの糸口さえつかめない。先発したQB加藤のランの記録が5回のラッシュでマイナス32ヤード。この数字を見ただけでも、いかにラインが押しまくられていたかが分かるだろう。
 突然の雷鳴で試合が中断。後半の開始が40分ほど遅れたが、事態は少しも変わらない。QBは浅海に交代したが、ラインがたびたび割られ、思うようにプレーをさせてもらえない。逆に相手には2本のTDと1本のフィールドゴールを決められ、4Q半ばでついに24-0。屈辱の完封負けという姿まで視野に入ってくる。
 ようやく、4Qも半ばを過ぎて、河原が39ヤードのランで活路を開く。これで元気の出たオフェンス陣が踏ん張り、浅海と稲村のランでゴール前23ヤードまで陣地を進める。ここで浅海が左のオープンスペースを駆け上がったWR萬代に絶妙のパスを通し、ようやくTD。スタンドの観客もほっと一息である。
 余談になるが、この4年生コンビは、このプレーの直前にも、まったく同じコースのパスを投げ、失敗に終わっている。同じ失敗を2度は繰り返さないという気持ちのこもったプレーを成功させてくれたことが、敗戦の中で唯一、うれしいことだった。
 話を戻す。せっかく一矢を報いたが、ファイターズの反撃もここまで。逆に、今春までファイターズで活躍していたQB幸田に67ヤードのロングパスを決められ、万事休す。31-7の完敗となった。
 この試合は、試合前から楽しみだった。相手のメンバー表を見ると、懐かしいファイターズの卒業生が多数、名を連ねている。背番号の若い順にRB古谷明仁、QB有馬隼人、QB幸田謙二郎、DB池谷陽平、DB山本幸司、DB星田光司、LB河合雄輝、LB毛利匡宏、DL石田貴祐。実に9人にも上る。普段、練習にも顔を出し、後輩の指導もしてくれるこの面々と、まともにぶつかり、どこまで「恩返し」ができるか、注目していた。
 だが、期待はもろくも裏切られた。ファイターズOBがはつらつとプレーしているのに、現役はそれに対抗できない。攻守とも好き放題にラインを割られ、それになすすべもない状態。ときおり相手の裏をかいたRB久司へのショベルパスやWR松原へのパスが通るが、その攻撃が続かない。
 ようやく終盤になって、相手がメンバーを交代させ、ファイターズも攻守に若手やこれまであまり試合に出ていなかったメンバーを投入してから、ようやく試合が落ち着いた。なかでも、1年生のOL和田(箕面)、DL金本(滝川)、梶原(箕面自由)、4年生のDL三村、LB吉川(よしかわ)、2年生のLB辻本らの動きは、先発メンバーと比べて、少しも遜色がなかった。
 それにしても、1年生やこれまでけがなどで試合に出ていなかったメンバーが出てから試合が落ち着くとはどういうことだろう。先発メンバーに、控えのメンバーを圧倒するほどの力がないということか。ドングリの背比べといっては失礼だが、上級生といっても、下級生を圧倒するだけの突出した力を付けていないということか。チーム内の競争がないから、いつまでたっても強力チームに対抗できる人材が育たないということか。
 この日の試合で白日の下にさらされたのは、社会人の一流チームには、手も足も出なかったということである。個別に素晴らしいプレーはあっても、それを得点につなげるチームとしての力が備わっていなかったということである。日大や京大との戦いでも、その点は明らかだったが、この試合に完敗したことで、その実態が明確になった。「日本1を目指すなんて、口にするのはおこがましい」と鳥内監督がいう通り、現在の実力の程度が天下にさらされたのである。
 さあ、どうする。
 自分で立ち上がるしかない。デフェンス、オフェンスの別なく、グラウンドで戦うすべてのメンバーが「オレがファイターズを引っ張る」という気構えを持って、鍛錬を続けるしかない。誰も助けてくれないのである。
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