石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2008/9

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(19)良寛の修行時代

投稿日時:2008/09/17(水) 10:43

 本当は忙しいはずなのに、毎晩、狂ったように本を読んでいる。
 「こんな日本でよかったね」(内田樹・バジリコ)「戦後詩」(寺山修司・ちくま文庫)「名文を書かない文章教室」(村田喜代子・朝日文庫)「センセイの鞄」(川上弘美・文春文庫)「溺レる」(川上弘美・文春文庫)「日本浄土」(藤原新也・東京書籍)「新聞と戦争」(朝日新聞「新聞と戦争」取材班・朝日新聞出版)「くろふね」(佐々木譲・角川文庫)「長谷川伸傑作選・股旅新八景」(長谷川伸・国書刊行会)「別冊太陽・良寛」(平凡社)……。
 9月になって読んだうち、再読本も含めて面白かった本を並べてみた。われながら、支離滅裂な読書である。乱読という範畴さえ越えているかもしれない。このほかに、新刊で手頃な本が見あたらなかったら、昔読んだ藤沢周平を引っ張り出して読んでいるのだから、「狂ったように」というのも言い過ぎではなかろう。
 乱読しているうちに、時々、気になる言葉やエピソードに出会う。今回は、江戸時代の禅僧・良寛(1758~1831)の修行僧時代の話である。
 さきの「別冊太陽・良寛」に紹介されている仁保哲明氏の論文によると、彼は22歳から34歳まで岡山県・玉島の円通寺で修行をした。毎朝3時に起床、夜9時に就寝するまで、日に3回の座禅を組み、その合間に清掃や読経、時には托鉢を続ける厳しい日課だったという。
 座禅のときは誰よりも早く座に着き、師の講義にも遅れたことはない。真面目一徹な修行ぶりだったが、一人、気になる法兄(兄弟子)がいた。
 彼は「座禅もせず、経も読まず、宗文一句たりとも語らず、ただひたすら畑仕事をして野菜を作り、典座として調理し、ふるまった」「典座はみなより早く起床し、朝食の準備にかかり、みなが座禅や読経をしているときもほとんど庫裏(台所)を離れることはない」「食事を作らせていただけることを喜びとし(喜心)、食べる人の身になって作り(老心)、自分を捨て、いまするべきことする(大心)典座という修行を一徹に貫いた」と仁保氏は紹介されている。
 良寛は当時、この兄弟子の真価が分からなかったそうだが、後に彼こそ真の道者だったと讃嘆し、自分は到底及ばぬといって、彼をたたえる詩を作っている。
 喜心、老心、大心。この話をファイターズというチームに置き換えて考えると、なかなか深い味わいがある。試合に出て活躍できるように鍛錬するだけが修行ではない。座禅を組み、師の講義を聴き、托鉢に出掛け、知識を蓄えるという修行もあれば、後輩の食事を作らせていただけることに喜びを感じ、自分を捨てる、という修行もあるのだ。
 ファイターズでいえば、マネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの仕事がそれに相当するだろう。練習台になって、レギュラーの面々を鍛える選手たちがいなければ、チーム力の向上はおぼつかない。試合に出る機会のない1、2年生に対し、自分を捨てて懇切丁寧に指導する上級生の存在がなければ、200人の部員がいてもチームの底上げは難しい。
 ファイターズが真のファイターズであるためには、そういう世間の人の目に触れないところで、それぞれの役割を「喜んで」「仲間の身になって」「自分を捨てて」行う存在が必要不可欠なのである。
 良寛が修行をした円通寺には「一に石を曳(ひ)き、二に土を搬(はこ)ぶ」という家風があったそうだ。つまらぬ理屈を言わず、ひたすら座禅をし、作務(勤労)修行をしなさい、という意味だそうな。真理は座禅をする僧堂(グラウンド)にもあるが、料理をつくる台所にも、掃除をする廊下にも、草むしりをする庭にも、至るところ、まんべんなくあるのだという。
 小難しい話になった。けれども「アメフットを通じてよき人間を作る」という目的を掲げたファイターズ、そこで活動する諸君にとっては、何かと心強い話だと思って紹介させていただいた。

(18)試合が育ててくれる

投稿日時:2008/09/09(火) 08:49

 9月7日午後6時15分。エキスポ・フィールドの空には、まだ夕焼けの雲が残り、半月がかかっている。その月に向かってキッカー松本が高々とボールを蹴り上げ、2008年ファイターズの戦いはスタートした。
 待ちに待った開幕である。試合の始まる3時間も前にスタンドに着くと、関学の応援席になっているバックスタンドはほぼ満員。もちろん、一つ前の近大-京大戦を見に来たファンが多いのだが、よく見ると、ファイターズファンもあちこちに陣取っている。ギャングスターの応援席にいながら、まるで試合に集中していないから、すぐに「あれはファイターズの人たち」と分かるのである。
 早くからスタジアムに来ると、練習前の選手たちの表情が手に取るように分かる。入り口付近で人を待っていると、練習開始を待ちかねた選手たちが次々に通る。ヘルメットを手にして歩く選手たちに声をかけると、彼らの「いよいよシーズンイン」というワクワクする気持ちと、初戦を迎える緊張感がひしひしと伝わってくる。
 マネジャーからメンバー表をもらい、スタメンを確かめる。同時にこの試合に登録されているメンバーを一人一人確認する。思いのほか1年生が多い。背番号の若い順にK大西、RB松岡、LB辻本(以上、高等部)、DB香山(崇徳)、OL谷山(関西大倉)、OL濱本(箕面)、LB土橋(関西大倉)、DL長島(佼成学園)、片岡、好川、和田、飯田(以上、高等部)、佐藤、東元(以上関西大倉)の14人もいる。
 秋の初戦から登録されるというのは、それだけ期待されているという証拠である。練習などで、彼らが元気に動いている姿を見ているから、僕も彼らが登場するところを想像してワクワクする。
 試合が始まる。同志社の最初の攻撃。QBが投じたパスをLB古下がカット、大きく跳ね上がったボールをDB三木がキャッチする。いきなりのターンオーバーで、ファイターズは一気に流れをつかむ。
 敵陣25ヤード付近でつかんだこの好機に、RB稲毛とRB河原が立て続けにロングゲインを奪い、たちまちタッチダウン(TD)に結びつける。攻守とも、文句の付けようのない鮮やかな立ち上がりだった。
 その後も、坂戸や徳井のインターセプトで同志社の攻撃をしのぎ、松本のフィールドゴール(FG)や1年ぶりにグラウンドに立ったRB石田のダイブプレーでTDを奪って、前半を17-0で折り返す。
 後半は、ファイターズのレシーブ。RB稲毛の好リターンで攻撃が始まる。RB河原の好走でダウンを更新した後、QB加納がWR柴田とWR松原に立て続けに長いパスを決め、たった3プレーでゴール前4ヤードに迫る。仕上げはWR太田のラン。わずか4プレー。あっという間のTDだった。ベンチに戻る加納の笑顔が「納得のいくシリーズ」だったことを正直に物語っている。
 24-0となってベンチに余裕が出たのか、次の攻撃シリーズからは、次々に新しいメンバーを送り込む。QBには期待の2年生加藤が登場。登録メンバーに名前を連ねた1年生の谷山や大西、濱本、長島、松岡らも次々に登場してグラウンドを駆け回る。
 けれども、相手は一軍のメンバー。なかなか練習通りのプレーはさせてもらえない。ボールをスナップした一瞬の隙をつかれたり、思い通りに相手をブロックできなかったりで、攻守ともどんどん手詰まりになっていく。
 春の試合から登場し、余裕のプレーを続けていたQB加藤も、初めての公式戦に臨む緊張感が隠せない。スタンドからわき上がる大歓声に勝手が違ったのかもしれない。練習ではやすやすと通しているパスがなかなか決まらない。せっかく投げても短かったり投げるのをためらったり。日ごろの練習で快調に投げている彼を知っている人間としては「おいおい、何を怖がってんねん」というところである。
 しかし、これが公式戦である。相手が本気になって倒しにくる、時には反則まがいのプレーも辞さない、という局面で経験を積んでいかないと、なかなか普段通りのプレーはできない。相手が目の色を変えてぶつかってくる試合。絶対に負けることが許されない試合こそが、仲間内の練習だけでは乗り越えられない試練を与えてくれる。試合が人を育てるのである。
 その試練を乗り越え、経験を積んで、初めてフレッシュマンもファイターズの一員になれるのである。
 その意味で、試合経験の少ない下級生にとっては、極めてありがたい試合だったと思う。この日の「屈辱」を胸に刻み、それを乗り越えて本当に戦える力を養ってもらいたい。
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