石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(18)うれし涙の甲子園

投稿日時:2023/12/19(火) 08:55

 関西学院大学ファイターズが17日、甲子園球場で開かれた第78回甲子園ボウルで、関東代表の法政大学を相手に61ー21で圧勝。過去にどのチームも成し遂げたことのない6年連続の優勝を果たした。
 18日付け朝日新聞9面には「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大きな見出しが踊り、その詳細を伝えている。これだけでもすごいことなのに、その隣の8面には「史上初の甲子園ボウル6連覇達成」「背負っていたモノを下ろしました」という見出しを付けた関西学院大学の全ページカラー広告が掲載された。グラウンドの真ん中で互いに肩を組み、気合いを入れている選手の姿が映し出されたその紙面を眺めながら、特別な感慨を抱かされた。
 スコア以上の圧勝だった。三塁側アルプススタンドの中央で、ファイターズが開設している場内限定の「放送席」近くから応援していても、試合の開始から終了まで、攻守の選手が躍動している姿が大きく見える。自軍の得点シーンだけでなく、得点につながるプレーの一つ一つが夢を運んでくれる。
 立ち上がりこそ、相手の思い切ったパスプレーに戸惑ったが、DB東田君の好プレーでそれを防ぎ、攻撃権をつかんでからはファイターズのショータイム。
 まずは自陣26ヤードから始まった初の攻撃シリーズ。第1プレーはQB星野君からWR鈴木君へのミドルパス。それがドンピシャで通ってダウン更新。次はRB前島君のランと星野君のキープ。途中、鈴木君への2度目のパスを挟んで再び星野君のラン。相手陣32ヤードに迫ったところで前島君が短いパスを受けて走り、ゴール前18ヤード。そこから今度は星野君が走ってTD。
 相手守備陣がランを警戒している場面ではパス。パスを警戒すればラン。双方に目配りしているときには、自身のキーププレー。まさに変幻自在の攻撃であり、日頃の練習で繰り返してきたプレーが面白いように決まる。当然のように、攻守共に盛り上がる。
 オフェンスの盛り上がりに呼応して、ディフェンスが発憤する。相手陣24ヤード付近から始まった法政の第1プレーはラン。それをLB海崎君が見事な出足で仕留め、7ヤードのロス。7ヤードのランプレーを挟んだ第3ダウンでは、相手QBの投じたパスにDB高橋君が思い切りよく飛び込んでカット。ここしかないというタイミングで見せたビッグプレーだ。
 ディフェンスに好プレーが続けば、攻める方も気合いが乗る。
 自陣47ヤード付近から始まったファターズ2度目の攻撃シリーズ。まずはRB伊丹君が5ヤードのラン。守備陣にランアタックを警戒させたところで、星野君がWR五十嵐君へ長いパス。それが見事に決まってTD。わずか2プレー(PATを含めて3プレー)で14-0とリードを広げる。
 攻守がかみ合えば、全体の意気が上がる。次の攻撃シリーズこそ陣地を進められなかったが、今度はキッキングチームが役割を果たす。自分たちの蹴ったボールを相手ゴール前1ヤードで押さえ、相手の攻め手を制約したのだ。次のプレー。動きのよいDB東田君がエンドゾーン内でボールキャリアを仕留めてセーフティ。2点を追加して16-0。
 第2Qに入ってもファイターズペースで試合が進む。まずはK大西君が32ヤードのフィールドゴールを決めて19-0。次のシリーズでは相手のリターナーがファンブル。それをキッキングチームが押さえて相手ゴール前25ヤード付近からファイターズの攻撃。RB澤井君と伊丹君のランでゴール前13ヤードと進んだところで、今度はQB星野君が走ってTD。26ー0とリードを広げる。
 こうなると、守備陣も余裕をもってプレーできる。DB波田君がナイスタックルを見せれば、DLショーン君が長身を利して相手のパスをインターセプト。そのままゴールまで50ヤード近くを走り切ってTD。
 今季は足のけがで苦しみ、ほとんど出場機会がなかった選手とは思えないような動きで「ショーンタイム」を演じてくれた。
 攻守それぞれが持ち味を発揮して前半だけで33点。後半にも、さらに28点を追加し、終わってみれば61-21。控えのメンバーも下級生たちも次々に出場し、応援席の期待に応えてくれた。ほんの3週間前、関大に悔しい敗戦を喫し、絶望の淵に落とされたチームが、甲子園の晴れ舞台でその悔しさを糧に、見事な試合を見せてくれた。
 その象徴が、甲子園ボウルの最優秀選手に選ばれた星野君である。彼が試合後、報道陣のインタビューを終えた後に涙を拭っている姿を見て、これがこの日グラウンドで戦ったチーム全員の涙、うれし涙だと思った。
 それは仲間を支え、仲間に支えられて今季を戦ってきたファイターズの全員が共有できる涙でもあろう。関西リーグ最終戦では同点、逆転のチャンスを逃がして関大に敗れ、一瞬、甲子園が見えなくなった。ある時期はコロナ禍に苦しみ、インフルエンザの集団感染にも見舞われた。けがで長期間、試合から離脱せざるを得ない選手も少なくなかった。この日、活躍したメンバーの中にもそういう選手は少なくない。先に挙げたショーン君もこの試合でほぼ完全に復帰。同じく、今季は戦列を離れることが多かった前島君も、この試合では完全復帰。素晴らしい活躍をしてくれた。
 星野君もまた、今季はけがに見舞われ、つい先日まではチーム練習にも加われなかった一人である。
 そうしたメンバーが今季最後の晴れ舞台で復活し、活躍してくれた。6連覇も嬉しいが、けがで苦しんだ面々が復帰し、甲子園で輝いてくれたことが本当に嬉しかった。

(17)充実した時間

投稿日時:2023/12/11(月) 21:02

 今、日本の学生フットボール界において、一番充実した時間を過ごしているのは、東の法政、西の関西学院であろう。双方共に、17日に阪神甲子園球場で開催される甲子園ボウルに向けて懸命に努力し、目的を持った練習に励んでいるからだ。
 今季のファイターズは、関西学生リーグ最終戦で関西大学に敗れた。その結果、先にリーグ戦を終えていた立命館とあわせ、三校がいずれも6勝1敗で優勝を分け合うことになった。試合後の抽選で甲子園ボウルへの出場権を手にしたのがファイターズ。当然、出場権を逃がしたライバルチームの思いも背負って戦わなけれればならない立場にある。
 そういう条件下、師走に入っても関西では唯一、大学王者になるべく「目的を持った時間」を過ごし、「目的を持った練習」に励んでいるのがファイターズである。私の記憶している限りでは、少なくとも5連覇を成し遂げた昨年までのチームは、この期間にさらなる技術を身に付け、新たなパワーを手にして、甲子園ボウルに臨んでいた。とりわけ4年生は毎年、関西リーグで勝ち続けた喜びを一端、棚に上げ、自分たちだけにに与えられた「戦うための時間」を、より有意義に過ごそうと、懸命に取り組んでいた。
 別の言い方をすれば、こうした「特別な時間」を与えられた喜びを力に変え、チームが一致結束して戦ったからこそ、それぞれの年次のチームが賜杯を手にし、5連覇という結果を呼び込んだのだろう。
 さて、今季のチームはどうか。ライバルチームの面々が今季を終了し、来季への準備をしているこの時期に、関西では唯一許された大学王者への挑戦が出来る「特別な時間」を有効に使えているだろうか。関西リーグで見えた欠点や弱点を克服するために、さらなる努力を重ねているだろうか。
 とりわけ4年生にとっては、文字通り今度の試合が最後になる。その試合を悔いなく戦うための準備はできているか。主将や副将だけでなく、それぞれのパートに責任を持つリーダーやプレーヤー。さらにはスタッフも含めて「学生日本一」と呼ばれるにふさわしい行動を重ねているか。
 下級生もまた、4年生を助けてチームの底上げを果たす役割を果たさなければならない。スタッフを含め、チームで活動する全員が懸命に働き、チームの底上げに貢献していかなければならない。
 そういう貴重な期間がこの3週間であり、その間の活動を通じてチームに新たな「伸びしろ」が生まれる。過去、勝ち続けてきたチームは、そういう「ライバルたちが持てない時間」を生かし切ったからこそ5年連続で学生王者の座に着くことができた。僕はそう考えている。
 さて、残すところあと数日。その間に甲子園練習もあるから、自分たちだけが他者の目を気にせず、存分に練習できる時間は限られている。監督やコーチから指摘されるから頑張る、ではなく、自分たちが勝ちたいから、もう一段階上を目指した練習に励む。それが出来るのがファイターズの選手であり、スタッフであるはずだ。
 残された時間は短い。それを有意義に使って準備を進めてもらいたい。それは待ったなし、言い分けなしの時間でもある。
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