石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(34)敗戦。そして再出発

投稿日時:2020/01/06(月) 08:23

 3日はライスボウル。社会人選手権の勝者と大学選手権の勝者が雌雄を決する大きな戦い試合である。舞台は東京ドーム。選手たちは前日から東京に入り、試合前、最後の練習を終えている。僕は3日の早朝、仁川の自宅を出て、新大阪駅8時20分発ののぞみで東京に向かう。
 いつもの年なら、この車中から気分が高揚し、その日の試合展開を想像したり、注目選手の活躍ぶりに思いをはせたりしている。気がつけば新横浜、もうすぐ東京か、と思うことも再三だったが、今年はどうもそんな気分になれない。試合のことを考えると、どうしてもライスボウルの仕組みのことが思い浮かび、頭がモヤモヤしてくる。仕方なく、車中のほとんどを持参した文庫本を読んで過ごした。
 東京駅に到着するとそのまま丸の内の改札口から出て皇居のお堀端に向かう。そこからお堀端の歩道を歩いて北の丸庭園、靖国神社の大鳥居を巡り、そこで気持ちばかりの「戦勝祈願」をした上で東京ドームへ。
 この1時間あまりの散歩の間に、その日の試合展開を予想し、活躍してくれそうな選手の顔を次々に思い浮かべる。そして「どうか選手生命に影響するような大きなけががありませんように」と祈るのが最近の僕の決めごとだ。
 それほど、近年は社会人チームと学生チームの体力差は大きくなっている。アメリカの本場で鍛え、頭角を現した外国人選手や各大学から選りすぐった選手を毎年補強している社会人。最近は、チームを支える企業の理解も深まり、チームを挙げて試合を想定した練習に取り組む時間も、それなりに確保できているようだ。
 それに対して、ファイターズは22歳以下の発展途上の選手ばかり。中には大学に入るまでフットボールとは縁のなかった選手も少なくない。学生である以上、学業との両立が求められ、十分な練習時間の確保も難しい。各自が授業の空きコマに筋力トレーニングに励み、夏休みには早朝からの練習も取り入れているが、それでも肝心のチーム練習に割ける時間は限られている。
 10年ほど前までは「学生が勝負をかけるのは後半。練習量の足りない社会人選手は、後半になると必ずバテてくる。そこで勝負すれば突破口が開ける」といわれていたが、ここ数年は正反対。社会人のサイドからは「基礎体力が勝る社会人が前半からガンガンいけば、学生を圧倒できる。必然的に(相手には)けが人も出る。主導権は終始社会人にある」という状況だ。
 それは、近年のスコアが証明している。昨年は52-17、1昨年は37-9、その前は30-13でそれぞれ社会人の勝利。学生が最後に勝ったのは、2009年に立命が17-13でパナソニック電工に勝った試合まで遡らなければならない。
 ここまで力の差が明確になれば、学生王者対社会人王者の対戦というライスボウルの在り方そのものを再考する必要がある。鳥内監督が再三、記者会見の席などで述べられているように「重大な事故が起きてからでは、遅い」のである。
 この件に関しては、4日の朝日新聞紙上で榊原一成記者が丁寧に書き込んでいる。主催者に名を連ねる朝日新聞を含めて、それぞれの関係者がじっくりと議論し、主催者の都合だけではなく、選手も指導者も、そしてファンも納得するような結論を見いだしてもらいたい。
閑話休題
 気がつけば、肝心の試合のことを書く前に、スペースが埋まってしまった。急いで、試合会場に戻ろう。
 試合はファイターズのレシーブで開始。立ち上がりはQB奥野からWR阿部、糸川に立て続けに短いパスを決めてダウンを更新。続く攻撃もRB三宅の20ヤードのランなどで陣地を進める。もう少しでフィールドゴール圏内というところまで迫ったが、後が続かず攻守交代。
 自陣16ヤードから始まった相手の攻撃は予想通りにすさまじい。ランとパスでぐいぐいと陣地を進め、わずか5プレーでTD。
 ランが止まらないからパスも通る。でも、ランを止めるために人数を割けば、後ろが手薄になる。そうした混乱をあざ笑うように、相手は次の攻撃シリーズでもわずか3プレーでTD。14-0とリードが広がる。
 それでもファイターズの士気は高い。WR阿部へのパス、QB奥野のキープ、RB三宅のランなどで懸命に陣地を進める。しかし、そのたびといってもいいほど攻撃陣に反則が出る。パスインターフェア、フォルススタート、交代違反。せっかく陣地を進めても、それを帳消しにするような反則が続いてリズムに乗れない。
 逆に相手は、自陣7ヤードからの攻撃をラン、パス、パス、パス、パスとそれぞれ1プレーでダウンを更新。5プレー目もパスでTD。瞬く間に21-0。異次元の能力を持つ外国人選手のランを警戒して守備陣が前に上がっているから、パスは止めようがない状態が続く。
 ここで一矢を報いたのがRB三宅。自陣36ヤード付近から一気に64ヤードを独走してTD。ファイターズ応援席を一気に沸かせる。相手ディフェンス陣を振り切って突っ走る姿は、とてつもなくかっこよかった。
 しかし、相手も即座に反撃。エースランナーが40ヤードを独走してTD。ここもまた、わずか6プレーでのTDだ。数えてみれば、相手は前半だけで4本のTDを獲得しているが、それに要したのは都合20プレー。平均すると、わずか5プレーごとにTDに仕上げているのだから、手がつけられない。これはもう、守備隊形がどうの、スピードの違いがどうのというレベルの話ではなく地力の差そのものというしかないだろう。
 後半になると、さすがにその勢いにも陰りが出てきたが、それも鳥内監督にいわせれば「相手がメンバーを落としてきたから」ということらしい。
 しかし、そうした一方的な展開だったが、ファイターズの諸君はくじけず、一歩もひかずに戦った。攻守ともに、極端に言えば1プレーごとにけが人が出るような状態だったが、それでもひるまず、相手にぶつかった。
 守備陣は立て続けにブリッツを繰り返して相手のボールキャリアに襲いかかり、QBサックも連発した。DLでは板敷、今井、寺岡、藤本、大竹、LBの繁治、海崎、DBの松本、畑中……。攻撃陣ではOL陣がなんとか相手の突進を支え、RBの三宅、前田、鶴留らに走路を開いた。阿部が率いるレシーバー陣も活躍、最後は鈴木が見事に奥野からのTDパスを確保して一矢を報いた。
 最終盤、だれの目にもオンサイドキックが見えている状態でK安藤が蹴ったボールをキッキングチームが確保したのも、練習の成果であり、最後まで衰えぬ士気の高さがもたらしたものだろう。
 最終的な得点は38-14。今年も大きな差がついたが、少なくとも士気の高さと運動量では相手に一歩も譲るところはなかった。それはこの日の戦い、特に第4Q残り38秒から展開した魂の攻撃が証明している。
 今後、ライスボウルの在り方などについて様々な議論がなされるだろうが、この試合を戦った選手諸君にとっては、あの38秒が大きな財産となるに違いない。
 それは試合後、グラウンドに降りて一言二言、声をかける機会のあった下級生たちの表情を見た僕が確信したことである。
 冬来たりなば、春遠からじ。この試合を最後に卒業する4年生の奮闘を特筆すると同時に、この敗戦から次の一歩を踏み出す下級生たちの今後に期待する。さあ、再出発だ。

(33)大きなギフト

投稿日時:2020/01/01(水) 00:38

 31日朝、久方ぶりに上ヶ原のグラウンドへ顔を出した。空は晴れ、青い空が広がり、所々に白い雲が浮かんでいる。大晦日の朝、まだ10時にもならないというのに、少し動けば汗がにじみ出てきそうな暖かさだ。
 グラウンドで体を動かしている選手は大半が長袖のトレーナー姿。中には半袖シャツだけという選手もいる。
 何よりも日差しが明るく、強い。つい先日までは授業が優先で、練習開始は夕方の5時半、6時から。日はとっぷりと暮れ、正真正銘の夜間練習だった。照明があっても薄暗く、遠くからだと選手の動きはもちろん、表情などは全く見えない。六甲連山から吹き下ろしてくる風は冷たく、どんなに厚着をしていても、体の芯から凍えてきた。
 そんな練習風景になじんでいたから、この日、久々に訪れたグラウンドは、まるで別世界。冬至も10日を過ぎれば一朝来復。このグラウンドから新しい年、新春が訪れたような気分だった。
 選手の動きも軽快だ。関西リーグの終盤から甲子園ボウルを迎えるまで、ずっと漂っていた重苦しい空気は一掃され、すがすがしい空気が漂っている。大きな試合の直前とあって、練習の強度が軽くなっていることを考慮しても、なんだか別のチームの練習を見ているような気分になってくる。
 どうしてここまで清々しい空間が生まれたのか。僕の勝手な解釈を言えば、立命館との2度の決戦は「絶対に負けられない戦い」、早稲田大学との甲子園ボウルは「絶対に勝ちたい戦い」、そして迎える1月3日のライスボウルは「思いっ切り自分たちの力を発揮する戦い」。そのように解釈すれば、重っ苦しい空気が一掃されたことも、いま挑戦者として、伸び伸びとした練習ができている理由も分かる気がする。
 そう考えると、この季節までチームの全員が大きな目標を持って練習できることが、どれほど幸せかということに思いが至る。
 関西リーグで敗退すれば、12月を迎える前にシーズンが終わってしまう。4年生は全員引退だ。迎えた西日本代表決定戦を勝ち抜いても、甲子園ボウルで敗退すれば、それでシーズン終了。かくしていま、次なる試合に備えて勝つための練習ができる環境にあるのはファイターズのみ。その練習が楽しくないはずがない。
 ほんの1カ月前、立命館との決戦を前にしたチームと、いま社会人代表との戦いを前にしたチームでは、置かれた環境が一変している。雰囲気が明るくなった理由もよく分かる。こういう雰囲気の中で練習できることが、試合で先発するメンバーだけでなく、交代メンバーやスカウトチームメンバーの底上げに直結していることはいうまでもない。
 さらにいえば、こういう環境があるからこそ、新しい戦術を開発し、それに習熟する時間も得られる。
 振り返れば、ファイターズはこの10年間で7回も、こういう濃密な時間を持つことができている。その時間の積み重ねが、他のライバルたちを凌駕するための強力な武器になっているのではないか。
 そう考えると、関西リーグはとっくに終わり、甲子園ボウルも終了したこの時期、大きな目的を持って練習に励めるというのは、とてつもない幸せな時間、大切な時間に思えてくる。それは今年のチームだけではなく、来年、再来年と続くチームにとっても大きなギフトであり、財産になるに違いない。
 迎えて新年。1月3日、東京ドームでこの練習の成果を存分に発揮してもらいたい。僕はそれを心から願っている。
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