石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(32)我慢する力

投稿日時:2016/12/20(火) 09:34

 甲子園ボウルでは初めてまみえる早稲田大学を相手に、ファイターズは堂々の勝利を収めた。31-14。終わって見れば、ダブルスコアである。
 しかしながら、現場で見ている限り、双方の力量に得点差ほどの開きがあったとは到底思えなかった。とりわけ前半は、早稲田の変幻自在な攻撃と思い切った守備体系に幻惑され、振り回された。ひとつ展開が変われば、早稲田の攻撃陣に存分に攻められるのではないかという予感さえした。
 立ち上がりのファイターズの攻撃がその予感に輪をかけた。RB高松のリターンで自陣26ヤードから始まったこのシリーズ。いきなりQB伊豆からWR池永へ30ヤードのパスがヒット。続いてRB野々垣と橋本が確実にヤードを稼ぎ、残る1ヤードは伊豆からWR前田へのパス。17ヤードを稼いで一気に相手ゴール前23ヤード。
 ここまでは順風満帆、計算通りだったが、そこからが攻めきれられない。先日の立命戦と同様、FGで3点を狙いにいったが、それが外れてまさかの無得点。前途多難という不安が漂う。
 迎えた早稲田の攻撃。第3ダウンロングの状況で簡単にパスを通され、簡単にダウン更新。前途に不安がよぎる。
 しかしここはLB松本のタックル、CB小椋のパスカットでなんとか相手をパントに追いやり、再び自陣35ヤードからファイターズの攻撃。ここはWR前田と亀山へのパスを立て続けに4本成功させ、RB橋本の中央ダイブ、再び前田へのパスと続けて3度ダウンを更新。仕上げはゴール前11ヤードから伊豆が左オフタックルを抜けてTD。西岡のキックも決まって7-0とリードした。
 これで一安心、と思う間もなくいきなり相手に37ヤードの縦パスを決められてゴール前33ヤード。そこから短いパスを立て続けに決められ、QBのスクランブルにも振り回されて、あっという間にゴール前4ヤード。次のプレーで中央を割られてTD。たちまち同点に追いつかれる。
 やっかいな相手とは聞いていたけど、たしかにその通りである。パスが自在に投げられるQBと走力のある二人のRB。それを自在に使い分けて攻め込んでくる早稲田の攻撃をどう止めるか、対応策はあるのか。スタンドから観戦していても気が気ではない。
 そういう嫌な雰囲気を突破してくれたのがDLの中央に立ちはだかる松本と藤木。とりわけ松本は120キロの巨体からは想像できないスピードで再三相手OLを突破し、QBに襲いかかる。たまらずパスを投げ捨てたが、それが反則とされ、相手の攻撃が続かない。
 ファイターズもDLが一人、残りの10人がLBとDBの位置に並ぶ変則的な相手守備陣に幻惑され、攻撃が続かない。双方ともにパントを蹴り合う状況だったが、その膠着状態を破ったのがRB橋本。自陣29ヤードからの攻撃で一気に36ヤードを走り、相手陣35ヤード。ここから野々垣のラン、伊豆のスクランブルなどで陣地を進め、残る6ヤードをRB加藤が走り切ってTD。まるで先日の立命戦の勝負を決めたTDと同じようなコースを駆け抜ける会心のプレーだった。
 これで息を吹き返したファイターズは、次のキックを相手陣奥に蹴り込む。それをキャッチした相手リターナーが左を走るもう一人のリターナーにそのボールをパスしたが、それが不正な前パスと判定され、早稲田の攻撃は自陣9ヤードから。そこからの第一プレーでDL松本が中央を割って相手QBに襲いかかる。慌ててパスしたボールがすっぽりLB山本の胸に入り、そのままゴールまで9ヤードを走り込んで見事なインターセプトリターンTD。ファイターズが21-7とリードして前半を折り返す。
 それでも早稲田はひるまない。後半の第一シリーズでTDを決め、21-14と追い上げる。こうなると、リードしている方が逆に苦しい。その苦しい場面をファイターズは伊豆の相手陣深くまでのパントでしのぎ、松本を中心としたDL陣が相手QBに圧力をかけ続けて持ちこたえる。膠着状態の中で4Q3分48秒という微妙な時間帯で西岡の21ヤードFGが決まって10点差。
 そうなると守備陣の動きはさらによくなるDE三笠のQBサック、DB小池のインターセプトとたたみかけ、仕上げは野々垣がオフタックルを抜けて21ヤードのTD。相手の反撃も、今度はCB小椋のインターセプトで断ち切ってしまう。最後はけがなどで戦列を離れていた4年生を大量に投入し、喜びのニーダウン。終わって見れば完勝だった。
 しかし、このように得点経過を記しているだけでも、勝利の女神はファイターズにほほえんだかと思うと、今度は早稲田に愛想を振りまく。その繰り返しの中で、勝敗を分けたのは何か。僕は我慢する力において、ファイターズに一日の長があったとにらんでいる。
 それを証明する場面ならいくらでも挙げることができる。例えば、DL松本や藤木が何度も相手ラインを割って相手QBに襲いかかった場面。相手QBがたまらずパスを投げ出す場面が相次ぎ、反則と判定されても仕方なさそうな場面もあったが、判定は単なるパス失敗。それでも腐らず、我慢強く中央を突破し、QBに圧力をかけ続けた。
 それが直接的には相手の攻撃を抑え、間接的にはQBの投げ急ぎを誘って3本のインターセプトにつながった。
 逆に伊豆は、そういう場面でも決して焦らず、我慢のプレーに徹していた。危険な場面では決して投げず、ぐっとこらえて自ら走り、陣地を進める。陣地は進まなくても、ボールを奪われることだけは絶対に避ける。その我慢が結局は仲間の好走、魂のダイブにつながり、ダウンを更新して新たな攻撃、新たな得点に結びつけた。
 ファイターズ側からいえば、リードしている強みを生かしたことになるし、相手側からいえば、追わなければならない焦りがミスにつながったともいえよう。
 甲子園ボウルのような大きな試合では、追う方も追われる方もともに苦しい。その苦しい状況で、どちらが辛抱できるか、我慢できるかという点に勝負の綾がある。
 双方の力を比較すれば、互いに攻守ともに持ち味、決めてがあった。それを存分に発揮した方が勝利に一歩近づくと、僕は試合前から考えていた。その見方は、試合が終わったいまも変わっていない。
 裏返せば、相手の決め手を封じるためにチームの全員がどこまで献身できるか、難しい局面でイチかバチかのプレーに走らず、どこまで我慢するかで勝負が決まるということである。試合展開とその結果からいえば、我慢する力において、ファイターズに一日の長があったということだろう。
 似たようなことを試合後のインタビューで主将の山岸君も言っている。次のような言葉である。関学スポーツから引用させていただこう。
 「勝負所でスペシャルプレーにやられる時もあったが、我慢したい時間帯は我慢できた。いつもピンチの時に回ってくるのがディフェンスチームの役割といってきたので、慌てず対処出来たと思う」
 その通りである。3万5千人の観衆に見守られ、日本1の座をかけた試合。アドレナリンが出まくる大舞台で、攻守のメンバー全員が、我慢するところで我慢し、相手の一瞬の隙を突いて刀を一閃させたというのが今年の甲子園ボウルではないか。そういう我慢する力を身に付け、ここ一番で発揮できたことを、人は成長と呼ぶ。

(31)GO! FIGHTERS!

投稿日時:2016/12/14(水) 12:54

 先週末、第三フィールドで練習の始まる前に、4年生DLの元原君と少しばかり立ち話をした。次のような会話である。
 「立命戦すごかったな。感動したよ」
 「みんなよく頑張ってくれました。オフェンスとディフェンスが互いに信頼して、100%の力を出してくれました。やっとチームが一つになったという実感があります」
 「本当に、シーズンの前半はどうなることかと思う試合ばかり。下位のチーム相手に、全然エエとこなかったからな」
 「神戸大戦あたりが最悪でした。これではアカン、とにかく練習から全力でやろうと僕自身も気合いを入れました」
 「たしかに君や堀川君が練習台になって、OLの当たりを真っ向から受け止めてくれたから、日に日にOLが強くなった。負傷者も復帰し、試合でも力を発揮できるようになった。攻める形ができてきたから、攻撃にリズムが出て、それが守備にもいい影響を及ぼしたということかな」
 「それにしても、この時季に目標を持って練習出来るっていいですね。去年はもうシーズンが終わってましたから」
 「そうそう。君らは選ばれたチームや。関西のライバルたちの悔しい思いを背負って全力で戦うことが義務や。去年の悔しさを思い出したら、どんな練習だって苦しくない。ワクワクする気持ちで練習に取り組み、もう一段も二段も力を付けてくれ」
 「はい。頑張ります」
 元原君は関西大倉高校時代はLBで主将を務めていた。期待されて入部したが、度重なるけがやポジションの変更で、なかなか試合で活躍する場面がなく、4年生になっても練習前の早い時間からグラウンドに降り、OLの練習台を務めるのが日課のようになっていた。それでも腐らず、Vの選手を相手に体を張って練習相手を務めてくれた。Vチームの一員となったいまもずっと、その役割を務めてくれている。
 同じポジションの堀川君も同様だ。彼は189センチ、120キロという巨体で、正面からのぶつかり合いでは誰にも負けない、と自負している。確かに、真っ向から当たれば、めちゃめちゃ強い。最近は試合に出る機会が増えたが、それでも練習時には1本目のOLたちを相手に練習台を務め、その特徴を生かして激しく当たりあっている。
 こうした選手は、ほかのポジションにも何人もいる。例えば、ランニングバックの松本直樹君もその一人。毎日毎日、スタメンで出るDBやLBを相手に練習台を務めている。体は小さいが、繰り返し繰り返し素早いスタートを切り、絶妙のカットバックでDBやLBを振り回している。その動きを見ていると、どうしてこれだけ動ける選手が試合に出してもらえないのか、そこまでRBの層が厚くなってきたのか、と思うほどだ。
 同様のことは4年生WRの水野君や細川君についてもいえる。彼らとはほとんど話したことはないけれども、いつも試合前の練習には先頭を切って現れ、同じく早出してきたQB伊豆君を相手にパスキャッチの練習をしている。二人は僕の授業に参加しているメンバーでもあり、先日の小論文では「試合で貢献する機会は少ないかもしれないが、いつも誰よりも早く練習を始め、熱心に取り組む姿を見せることで、後輩たちの模範になることを心掛けている」という意味のことを書いていた。
 こういう部員が攻守ともに何人も存在し、チームを支えているのがファイターズである。彼らが体を張って練習台になり、もっと強く当たれ、もっと素早く動け、と仲間を鍛えに鍛えているからこそ、試合に出る選手は本番でも活躍できるのである。口で言うだけでなく体を張って本物の当たりを教え、見たこともないようなカットバックを見せる。早くからグラウンドに出て、後輩たちに手本を見せる。その繰り返しがあって初めて、試合で力を発揮できる選手が育っていくのである。
 ローマは一日にして成らず、ファイターズも1日にして成らずである。
 そういう練習を師走も半ばになって続けることができる。甲子園ボウルで勝つ、社会人を相手に勝つという、明確な目標を持って取り組む練習。元原君が「この時季も、目標を持った練習ができることがうれしい」という意味はそこにある。
 いよいよ甲子園ボウル。キックオフは18日午後1時5分。ここで一番、練習の成果を披露してくれ。山岸主将が立命戦の後、インタビューでいっていた。「僕たちの目標は日本1ですから」と。日ごろの練習を信じ、立命戦の激闘を支えにして、東の代表を打ち破ってくれ。
 GO! FIGHTERS!
 Fight Hard!
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