石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
<<前へ | 次へ>> |
(7)JV戦の収穫
投稿日時:2017/05/23(火) 13:23
20日の土曜日は、今季初めてのJV戦。京都産業大学との試合だった。会場の第3フィールドは、雲一つない好天。5月とは思えないほどの強い日差しが照りつける。いつも通り平郡雷太君を偲ぶ記念樹の前で観戦していたが、暑くて暑くて耐えられない。隙をみては記念樹の木陰に逃げ込んで一息入れていたが、試合後、帰宅して鏡を見れば、顔も首筋も腕も、やけどしたように赤くなっていた。
幸い甲山から心地よい風が吹いていたが、それでも人工芝のグラウンドで戦う選手達にとっては、相手と戦う前に、暑さとの戦いが大変だったろう。とりわけスタイルしているメンバーが30人ほどしかいない相手チームにとっては、攻守ともに交代メンバーを準備するだけでも大変だったに違いない。暑さでふらふらになっても、休む間もなく出場しなければならない選手が多かったことには、思わず同情してしまった。
対して、ファイターズのベンチには、多少とも日陰のある場所がある。4年生から1年生まで、各ポジションの交代メンバーにも不足はない。というより、誰も彼もが出場機会を狙ってぎらぎらしている。
そうした両軍ベンチの条件の違いが77-0というJV戦でも珍しい結果になったのだろう。とりわけ後半は、相手の主力選手がバテバテになっているのがスタンドからでもうかがえた。
だから、今回は試合展開を追ってもあまり意味はない。それよりも、これは期待が持てると思わせてくれた選手や新しく加入した1年生を中心に書いていきたい。
一番はRB中村行佑。試合が始まって2プレー目。自陣23ヤード付近から左オープンを駆け上がり、一気に77ヤードを走り切って先制のTD。その後も40ヤードの独走TDなど合計4本のTDを決める活躍振りだった。試合後の統計を見れば、ランが8回171ヤード、レシーブが1回40ヤード、合計211ヤードを獲得して、今季、Vの試合でも活躍しているのが伊達ではないところを見せた。
同じRBでは、QBから移ってきた西野も6回のキャリーで81ヤード。独走タッチダウンも決めた。彼は肩が強く、走る能力も兼ね備えたQBとして期待されてきたが、RBに移ってからは練習に対する取り組みが変わったようだ。練習中にも「今年はひと味違うぞ」と思わされる場面が何度かあり、試合前から密かにこの日の注目選手と見ていたが、期待は裏切られなかった。
注目選手と言えば、この日の先発QB百田。強肩の大型QBとして入部当時から期待されてきたが、何かと伸び悩み、なかなかチャンスがつかめなかった。しかし、JV戦とはいえ、この日は先発。同じ4年生のWR前田耕作へ立て続けに2本のTDパスを決めて非凡なところを見せた。76ヤードのTDパスを確実にキャッチした前田も、さすがはVのメンバー。スピード、コース取り、そしてキャッチングのセンス。それぞれがJV戦に出すことが「反則」と思えるほど、別格の存在に見えた。
問題はOL。JV戦とはいいながら、この日の先発メンバーは、先日の日大戦と全く同じ。右から松田、森田、光岡、松永、池田と並んだ。TEこそ三木から藤田統貴に代わったが、いわばVのメンバーで臨んだのである。Vのメンバーを駆り出さなければ、人数が揃えられないのか、それとも経験の浅いメンバーに少しでも試合経験を積ませるため、あえてJV戦でも先発で起用し、試合の中で何事かを覚えさせようとしたのか。詳しいことは分からないが、ともあれ、昨年のOLを支えたメンバーの大半が卒業し、その穴を埋めるのに苦労している現状を見せつけられた気がする。
ディフェンスもまた、多くのメンバーを卒業で失った。その穴を埋めるためにこの日は試合経験の少ない下級生を積極的に登用した。DLの今井、筒井、パング弟。LBの大竹、板敷、倉西。彼らは昨年から今季にかけて、少しずつ試合に出る機会があり、試合を重ねるたびに動きがよくなっている。再建色の強いDB陣も、慶応や日大との戦いで交代メンバーとして出ていた田中、平尾、坂本、荒川、弓岡らが活躍。それぞれに見せ場を作った。今後、試合経験を積むごとに力を発揮してくれそうな予感がする。
この日は1年生も数人、試合に出場し、それぞれ非凡なところを見せた。出番が後半、相手がバテてしまった後だから、割り引いて考えなければならないが、それでもRB田窪(追手門)のパワフルな走り、TDを挙げたRB鶴留(啓明)の切れのよいステップは、1年生離れしたところがあった。レシーバーでは高等部ではQBだった山口、林が活躍。守備ではLBの海崎(追手門)とDB井上(浪速)が出場機会を掴んだ。それぞれ、まだまだ動きはぎこちないが、それでも4月に入学してきたばかりとは思えないような元気な動きを見せていた。
今季はほかにも将来性豊かな1年生が何人もいる。ようやく半数近くがレギュラー陣の練習に交えてもらえるようになったばかりだが、次の北海道大学とのJV戦には、出場機会が増えるに違いない。今度は、そこに注目したい。
もちろん、ファンにとってもチームにとっても、その前に大きな山がある。今週末の関大戦であり、その次の社会人、パナソニックとの戦いである。多くの卒業生を送り出し、再建色の強いチームを4年生がどのようにまとめるか。下級生の中からどれだけ「孝行息子」が出てくるか。今度はそこに注目して応援しよう。試合会場は王子スタジアム、28日午後5時キックオフである。
◇ ◇
お知らせがひとつあります。今年も朝日カルチャーセンターで小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」が開かれます。
日時:7月15日(土)午後6時30分
場所:アステ川西6階「アステホール」(阪急川西能勢口駅前、JR「川西池田」駅よりデッキで直結)
今年もより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されています。
詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/73fa66a5-ced3-5b2c-6723-58f18fa7fe1b
幸い甲山から心地よい風が吹いていたが、それでも人工芝のグラウンドで戦う選手達にとっては、相手と戦う前に、暑さとの戦いが大変だったろう。とりわけスタイルしているメンバーが30人ほどしかいない相手チームにとっては、攻守ともに交代メンバーを準備するだけでも大変だったに違いない。暑さでふらふらになっても、休む間もなく出場しなければならない選手が多かったことには、思わず同情してしまった。
対して、ファイターズのベンチには、多少とも日陰のある場所がある。4年生から1年生まで、各ポジションの交代メンバーにも不足はない。というより、誰も彼もが出場機会を狙ってぎらぎらしている。
そうした両軍ベンチの条件の違いが77-0というJV戦でも珍しい結果になったのだろう。とりわけ後半は、相手の主力選手がバテバテになっているのがスタンドからでもうかがえた。
だから、今回は試合展開を追ってもあまり意味はない。それよりも、これは期待が持てると思わせてくれた選手や新しく加入した1年生を中心に書いていきたい。
一番はRB中村行佑。試合が始まって2プレー目。自陣23ヤード付近から左オープンを駆け上がり、一気に77ヤードを走り切って先制のTD。その後も40ヤードの独走TDなど合計4本のTDを決める活躍振りだった。試合後の統計を見れば、ランが8回171ヤード、レシーブが1回40ヤード、合計211ヤードを獲得して、今季、Vの試合でも活躍しているのが伊達ではないところを見せた。
同じRBでは、QBから移ってきた西野も6回のキャリーで81ヤード。独走タッチダウンも決めた。彼は肩が強く、走る能力も兼ね備えたQBとして期待されてきたが、RBに移ってからは練習に対する取り組みが変わったようだ。練習中にも「今年はひと味違うぞ」と思わされる場面が何度かあり、試合前から密かにこの日の注目選手と見ていたが、期待は裏切られなかった。
注目選手と言えば、この日の先発QB百田。強肩の大型QBとして入部当時から期待されてきたが、何かと伸び悩み、なかなかチャンスがつかめなかった。しかし、JV戦とはいえ、この日は先発。同じ4年生のWR前田耕作へ立て続けに2本のTDパスを決めて非凡なところを見せた。76ヤードのTDパスを確実にキャッチした前田も、さすがはVのメンバー。スピード、コース取り、そしてキャッチングのセンス。それぞれがJV戦に出すことが「反則」と思えるほど、別格の存在に見えた。
問題はOL。JV戦とはいいながら、この日の先発メンバーは、先日の日大戦と全く同じ。右から松田、森田、光岡、松永、池田と並んだ。TEこそ三木から藤田統貴に代わったが、いわばVのメンバーで臨んだのである。Vのメンバーを駆り出さなければ、人数が揃えられないのか、それとも経験の浅いメンバーに少しでも試合経験を積ませるため、あえてJV戦でも先発で起用し、試合の中で何事かを覚えさせようとしたのか。詳しいことは分からないが、ともあれ、昨年のOLを支えたメンバーの大半が卒業し、その穴を埋めるのに苦労している現状を見せつけられた気がする。
ディフェンスもまた、多くのメンバーを卒業で失った。その穴を埋めるためにこの日は試合経験の少ない下級生を積極的に登用した。DLの今井、筒井、パング弟。LBの大竹、板敷、倉西。彼らは昨年から今季にかけて、少しずつ試合に出る機会があり、試合を重ねるたびに動きがよくなっている。再建色の強いDB陣も、慶応や日大との戦いで交代メンバーとして出ていた田中、平尾、坂本、荒川、弓岡らが活躍。それぞれに見せ場を作った。今後、試合経験を積むごとに力を発揮してくれそうな予感がする。
この日は1年生も数人、試合に出場し、それぞれ非凡なところを見せた。出番が後半、相手がバテてしまった後だから、割り引いて考えなければならないが、それでもRB田窪(追手門)のパワフルな走り、TDを挙げたRB鶴留(啓明)の切れのよいステップは、1年生離れしたところがあった。レシーバーでは高等部ではQBだった山口、林が活躍。守備ではLBの海崎(追手門)とDB井上(浪速)が出場機会を掴んだ。それぞれ、まだまだ動きはぎこちないが、それでも4月に入学してきたばかりとは思えないような元気な動きを見せていた。
今季はほかにも将来性豊かな1年生が何人もいる。ようやく半数近くがレギュラー陣の練習に交えてもらえるようになったばかりだが、次の北海道大学とのJV戦には、出場機会が増えるに違いない。今度は、そこに注目したい。
もちろん、ファンにとってもチームにとっても、その前に大きな山がある。今週末の関大戦であり、その次の社会人、パナソニックとの戦いである。多くの卒業生を送り出し、再建色の強いチームを4年生がどのようにまとめるか。下級生の中からどれだけ「孝行息子」が出てくるか。今度はそこに注目して応援しよう。試合会場は王子スタジアム、28日午後5時キックオフである。
◇ ◇
お知らせがひとつあります。今年も朝日カルチャーセンターで小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」が開かれます。
日時:7月15日(土)午後6時30分
場所:アステ川西6階「アステホール」(阪急川西能勢口駅前、JR「川西池田」駅よりデッキで直結)
今年もより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されています。
詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/73fa66a5-ced3-5b2c-6723-58f18fa7fe1b
(6)「グリーンボーイ」
投稿日時:2017/05/13(土) 09:39
5月も半ばとなって、上ヶ原のキャンパスは一気に緑があふれてきた。
ほんの1カ月前までは、花見だ、記念写真だと騒いでいた桜はもう濃い緑の葉で覆われている。葉を落として寂しかったケヤキは盛大に緑の葉を広げ、クスノキも古い葉を散らして、すっかり新緑に変わっている。
中央芝生を取り巻くトキワサンザシの垣根は白い花を盛大に付け、独特の芳香をあたりに漂わせている。
第3フィールドに入ると、ウグイスの鳴き声が聞こえてきた。グラウンドの南東の隅に雑木林があり、そこから「ホーホケキョ」と鳴き続けている。練習の見学を放棄して、じっと声のするところを眺めていると、その姿まで見つけることができた。
ウグイスの鳴き声は誰でも気付くが、その姿はなかなか見つけにくい。それをいわば大学の構内で見つけることができて、幸せな気分になる。その前に、ウグイスの鳴き声が聞こえる環境で練習出来るなんて、都心の大学では想像もつかないことだろう。
幸せな気分と言えば、今春入部した1年生、いわゆる「グリーンボーイ」たちの練習を見るのも同様だ。高校の頃から騒がれていた選手もいれば、他競技からフットボールを志願してきた選手もいる。高等部や啓明学院から進学してきたメンバーもようやく揃ってきた。
ホームページのリストを数えれば選手が41人、スタッフが4人。総勢45人のニューカマーである。その中には、昨年夏、スポーツ推薦を目指して勉強会をともにしたメンバーもいるし、野球やバスケットボール、ラグビーなど他競技から志願してファイターズの門を叩いた選手もいる。
彼らが4時限、あるいは5時限終了後、駆け込むようにしてグラウンドに顔を見せ、それぞれがグループをつくり、体作りのメニューに挑む。腹筋、背筋を鍛え、首から肩にかけての筋肉を鍛える。グラウンドとその周囲にある坂道を周回するコースを全力で走る「走りモノ」と称するメニューも必ず組み込まれている。
一通りの練習が終われば、RBやWR、DBを志望する部員は武田建先生の元に集まってボールを受ける練習。まだ、ポジションの決まっていない選手もこの練習に参加し、楕円形のボールに馴染む。これはボールを受ける基本練習であり、同時に選手同士がどの程度の運動能力を持っているのかを披露し会い、互いにお友達になる練習でもある。
もちろん、僕らの目に触れないところでも部活動は続く。授業の空きコマを利用してトレーニングルームで筋トレをしたり、ファイターズのフットボールを理解するための勉強会に参加したり。
こうした練習は、当初は全員参加だが、1カ月ほどしてそれぞれ筋力数値が上がり、所定の体重をクリアし、走りモノのメニューに慣れてくると、徐々に上級生のパート練習に参加させてもらえるようになる。選抜された部員のヘルメットには赤いテープでバツ印が付けられ、同様、赤のテープで各自の名前が貼り付けてある。上級生にフルタックルをしないようにという配慮であり、早く名前を覚えてもらえるようにするための工夫である。
この集団を率いているのが新入生担当トレーナー潮博史君、3年生。六甲高校のラグビー部出身で、昨季まではOLのメンバーだったが、いまは後輩の指導を担当している。彼の教え方が遠くから見ていても、恐ろしいほど上手い。力強く指示を出し、なすべきことを的確に伝える。見本を見せる。そこまでは誰もがすることだが、一人一人に向き合う姿勢に独特の雰囲気がある。息が上がった選手を上手く励まし、ぎりぎりまで力を発揮させる。自分が新入生のころ、この競技の未経験者として体験したことを上手く生かしているのだろう。決して怒鳴らず、それでいてやるべきことはしっかりやらせる。彼が高校や中学校の教員になれば、きっと課外活動の指導でも成功するはずだと思えてくる。
新入生の指導と言えば、忘れてはならない名前がある。鳥内監督だ。この時期、グラウンドに出てくると、大半の時間を新入生の練習を眺めることに費やされている。気付いたことがあれば、即座に担当トレーナーに声を掛け、注意を促す。時には選手に直接声を掛け、当たり方を指導する。足の運び方から腕の使い方。目の動きから相手との距離感。新入生にそこまで、と思うほどの細かい指導が自ら模範を示して続く。
これは今季に限ったことではなく、毎年、この時期に見掛ける光景である。監督にその目的を聞くと「はじめに悪い癖を付けたら、選手がかわいそうや。最初が肝心。はじめにきちんと教えといたら、後々迷うことがない」という答えが返ってきた。
大学だけでなく、高校や中学校の部活の指導者は、どうしても試合に出る選手が優先になりやすい。控え選手や新入生を相手に時間を割くよりも、試合に出るメンバーを鍛える方が成果が出やすいと考えるからだろう。
しかし僕は、かねてからそういう考え方に疑問を持っている。逆に、チームの末端にまで目を配っている指導者に恵まれたチームは、たとえ体格や運動能力に劣っていたとしても、成果を挙げている例が多い。それは記者として現場を走り回っていた頃の見聞や、日本高野連の理事をしていたころにつきあった指導者との交流から、確信となっている。
部員が200人もいれば、一人の人間がその全員に目を配るのは至難の業だろう。しかしながら、新入生に分け隔てなく目を配り、初歩の形を丁寧に指導する。そういう機会を求めてつくることで、全体が見えてくる。組織が有機的に動き、力が発揮できる。その辺を心得たベテラン監督ならではの「目」であろう。毎年ことながら、新入部員を見つめる鳥内監督の「目」は興味深い。
こうして丁寧に育てられた新人たちが、間もなくデビューする。まずは20日、京都産業大とのJV戦を注目したい。そこに登場しそうな1年生の顔を思い浮かべるだけでも、ワクワクしてくる。
ほんの1カ月前までは、花見だ、記念写真だと騒いでいた桜はもう濃い緑の葉で覆われている。葉を落として寂しかったケヤキは盛大に緑の葉を広げ、クスノキも古い葉を散らして、すっかり新緑に変わっている。
中央芝生を取り巻くトキワサンザシの垣根は白い花を盛大に付け、独特の芳香をあたりに漂わせている。
第3フィールドに入ると、ウグイスの鳴き声が聞こえてきた。グラウンドの南東の隅に雑木林があり、そこから「ホーホケキョ」と鳴き続けている。練習の見学を放棄して、じっと声のするところを眺めていると、その姿まで見つけることができた。
ウグイスの鳴き声は誰でも気付くが、その姿はなかなか見つけにくい。それをいわば大学の構内で見つけることができて、幸せな気分になる。その前に、ウグイスの鳴き声が聞こえる環境で練習出来るなんて、都心の大学では想像もつかないことだろう。
幸せな気分と言えば、今春入部した1年生、いわゆる「グリーンボーイ」たちの練習を見るのも同様だ。高校の頃から騒がれていた選手もいれば、他競技からフットボールを志願してきた選手もいる。高等部や啓明学院から進学してきたメンバーもようやく揃ってきた。
ホームページのリストを数えれば選手が41人、スタッフが4人。総勢45人のニューカマーである。その中には、昨年夏、スポーツ推薦を目指して勉強会をともにしたメンバーもいるし、野球やバスケットボール、ラグビーなど他競技から志願してファイターズの門を叩いた選手もいる。
彼らが4時限、あるいは5時限終了後、駆け込むようにしてグラウンドに顔を見せ、それぞれがグループをつくり、体作りのメニューに挑む。腹筋、背筋を鍛え、首から肩にかけての筋肉を鍛える。グラウンドとその周囲にある坂道を周回するコースを全力で走る「走りモノ」と称するメニューも必ず組み込まれている。
一通りの練習が終われば、RBやWR、DBを志望する部員は武田建先生の元に集まってボールを受ける練習。まだ、ポジションの決まっていない選手もこの練習に参加し、楕円形のボールに馴染む。これはボールを受ける基本練習であり、同時に選手同士がどの程度の運動能力を持っているのかを披露し会い、互いにお友達になる練習でもある。
もちろん、僕らの目に触れないところでも部活動は続く。授業の空きコマを利用してトレーニングルームで筋トレをしたり、ファイターズのフットボールを理解するための勉強会に参加したり。
こうした練習は、当初は全員参加だが、1カ月ほどしてそれぞれ筋力数値が上がり、所定の体重をクリアし、走りモノのメニューに慣れてくると、徐々に上級生のパート練習に参加させてもらえるようになる。選抜された部員のヘルメットには赤いテープでバツ印が付けられ、同様、赤のテープで各自の名前が貼り付けてある。上級生にフルタックルをしないようにという配慮であり、早く名前を覚えてもらえるようにするための工夫である。
この集団を率いているのが新入生担当トレーナー潮博史君、3年生。六甲高校のラグビー部出身で、昨季まではOLのメンバーだったが、いまは後輩の指導を担当している。彼の教え方が遠くから見ていても、恐ろしいほど上手い。力強く指示を出し、なすべきことを的確に伝える。見本を見せる。そこまでは誰もがすることだが、一人一人に向き合う姿勢に独特の雰囲気がある。息が上がった選手を上手く励まし、ぎりぎりまで力を発揮させる。自分が新入生のころ、この競技の未経験者として体験したことを上手く生かしているのだろう。決して怒鳴らず、それでいてやるべきことはしっかりやらせる。彼が高校や中学校の教員になれば、きっと課外活動の指導でも成功するはずだと思えてくる。
新入生の指導と言えば、忘れてはならない名前がある。鳥内監督だ。この時期、グラウンドに出てくると、大半の時間を新入生の練習を眺めることに費やされている。気付いたことがあれば、即座に担当トレーナーに声を掛け、注意を促す。時には選手に直接声を掛け、当たり方を指導する。足の運び方から腕の使い方。目の動きから相手との距離感。新入生にそこまで、と思うほどの細かい指導が自ら模範を示して続く。
これは今季に限ったことではなく、毎年、この時期に見掛ける光景である。監督にその目的を聞くと「はじめに悪い癖を付けたら、選手がかわいそうや。最初が肝心。はじめにきちんと教えといたら、後々迷うことがない」という答えが返ってきた。
大学だけでなく、高校や中学校の部活の指導者は、どうしても試合に出る選手が優先になりやすい。控え選手や新入生を相手に時間を割くよりも、試合に出るメンバーを鍛える方が成果が出やすいと考えるからだろう。
しかし僕は、かねてからそういう考え方に疑問を持っている。逆に、チームの末端にまで目を配っている指導者に恵まれたチームは、たとえ体格や運動能力に劣っていたとしても、成果を挙げている例が多い。それは記者として現場を走り回っていた頃の見聞や、日本高野連の理事をしていたころにつきあった指導者との交流から、確信となっている。
部員が200人もいれば、一人の人間がその全員に目を配るのは至難の業だろう。しかしながら、新入生に分け隔てなく目を配り、初歩の形を丁寧に指導する。そういう機会を求めてつくることで、全体が見えてくる。組織が有機的に動き、力が発揮できる。その辺を心得たベテラン監督ならではの「目」であろう。毎年ことながら、新入部員を見つめる鳥内監督の「目」は興味深い。
こうして丁寧に育てられた新人たちが、間もなくデビューする。まずは20日、京都産業大とのJV戦を注目したい。そこに登場しそうな1年生の顔を思い浮かべるだけでも、ワクワクしてくる。
«前へ | 次へ» |