石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(25)台風の中の試合
投稿日時:2017/10/23(月) 19:21
22日、龍谷大学との試合は台風の中でのキックオフ。しかし僕は、王子スタジアムでの応援はかなわなかった。
当日は衆議院選挙の投開票日であり、同時に超大型の台風21号が強い勢力を保ったまま紀伊半島付近に近づいてくるという。紀伊半島といえば、僕が働いている田辺市はその中心地。周辺には大雨のたびに大きな被害の出る地域がいくつもある。高速道路が通行止めになり、電車が運転を見合わせることもたびたびだ。6年前には紀伊半島大水害に見舞われ、山林の崩壊事故があちこちで発生し、大きな被害が出た地域でもある。
こういう事態に再び見舞われる懸念があり、同時に選挙の開票結果を入れる紙面も製作しなければならない。編集の責任者としては、ゆっくりフットボールを観戦し、贔屓のファイターズを応援している場合ではないのである。
この十数年、少なくとも関西で行われるファイターズの試合はあらゆる日程に優先させして欠かさず観戦し、応援してきた僕でも、さすがに今度ばかりは勤務地を離れる訳にはいかない。泣く泣く観戦をあきらめ、rtvの画面と、ファイターズのスタッフによるツイッタ-の速報で我慢するしかなかった。
以下は、試合時間中の仕事を放棄し、パソコンの画面にかじりついていた僕の観戦記である。臨場感のないのはご容赦願いたい。
降りしきる雨の中、ファイターズのレシーブで試合開始。この日の先発QBは今季初めて光藤が務める。先週末の練習ではパスとランを織り交ぜたプレーをテンポよく繰り広げ、素人目にも状態が上がってきたことが見て取れた。それを試合で思い通りに発揮できるかどうかに注目していたが、昼間から照明灯に灯を入れなければならないほどの豪雨では、パスプレーを選択することは無謀である。
それは相手も十分に承知している。当然、ランプレーが予測される中で、相手の守備をどう突破して行くか。そこに注目していたが、ふたを開けて見ると、話は簡単だった。
どういうことか。
結論からいえば、能力の高いRB陣を100%の条件で走らせるだけのことだった。ただし、そこにはファイターズならではの仕掛けがあった。例えば、本当のキャリアを相手守備陣から隠すためにドロープレーを多用し、タイミングを変化させながら守備陣の隙間をつく。ボールを手渡す際には、必ずといってよいほど巧妙なフェイクを入れる。時にはボールを手渡したふりをして相手守備陣をRBに引き寄せ、開いた隙間をQBが走る。そんな工夫を随所にちりばめて、陣地を進めて行く。
試合開始直後、RB山口がドロープレーで約50ヤードを独走して相手ゴールに迫る。勢いに乗ってRB高松が残る10ヤードを走り切ってTD。K小川がキックを決めて7-0と先制する。
自陣34ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、山口と高松が交互にボールを運ぶ。時には光藤のキーププレーで相手守備陣の注意をそらす。2度もフォルススタートの反則があったが、委細構わず陣地を進め、仕上げは山口が14ヤードを駆け抜けてTD。14-0とリードして主導権を握る。
しかし、荒天下の試合では何が起きるか予測もつかない。足元は一帯が水たまりのようになっているし、風が強いからキックのコントロールも難しい。何よりセンターからスナップされたボールが揺れるからファンブルが怖い。パスをしたくても雨で視界が遮られるから投げる方も捕る方も難しい。
こんな制約があっては、ファイターズが誇る強力なWR陣も腕の見せ場がない。しかし、役割はある。ブロッカーとなって相手守備陣の足を止め、RB陣に走路を開く。時にはRBの役割も果たす。第1Qの終盤に回ってきたファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、WR前田耕がその役割を見事に演じた。
自陣28ヤードから始まったこのシリーズ。第2Qに入っても、山口、高松、光藤が代わる代わるボールを持って陣地を進める。相手守備陣の目が中央に向いたその隙を突くように前田耕がジェットモーションからボールを受け取り、一気に左オープンをまくり上げる。そのまま30ヤードを駆け抜けてTD。
さらに相手がパントを失敗し、相手ゴール前30ヤードから始まった4回目の攻撃シリーズも高松、山口、中村のRB陣が交代でボールを運び、高松のこの日2本目のTDで仕上げる。気がつけば、攻撃陣はここまで4度の攻撃シリーズをすべてTDに結び付けている。強い雨と風にもひるまず、相手の目を前後左右に振り回し、緩急を付けて攻め続けた戦法が功を奏したのだろう。
攻撃陣の影に隠れてしまう形になったが、守備陣の活躍も見事だった。副将藤木が戻ってより強力になった1列目、同じく副将松本を中心とした2列目、チーム切ってのアスリート小椋が率いる3列目。それぞれが持ち味を出して相手に付け入る隙を与えなかった。
しかし、課題も浮き彫りになった。先発で出場したメンバーと後半になって次々に登用された控えのメンバーとの力の差が埋まっていないことである。この日のように、グラウンド条件の悪い日は、その差が余計に明確になる。高い能力を持つ選手は、少々グラウンドの条件が悪くても力を発揮できるが、試合経験のない選手はそうはいかない。雨や風が気になって力が発揮できないのだ。
それをどう解決するか。チームとしても対策を考えているだろうが、結局はそれぞれの選手の努力にかかっている。一人一人が自らの足りない点を自覚し、目的を持った練習を積むしかない。いま、先発メンバーに名を連ねている選手はみな、そうして自らを追い込み、鍛え上げてきたのである。
次戦には関大、その次には立命との試合が迫っている。能力の高い交代メンバーは多ければ多いほどありがたい。チームとしての選択肢が広がるし、攻撃の幅も広がる。守備でも主力選手を随時交代させながら登用していけば、特定の選手に疲れもたまらず、常に最高のパフォーマンスが期待できる。もちろん、下級生が厳しい試合で経験を積めば、来期以降の備えにもなる。
「ローマは一日にしてならず」。いまは控えのメンバーに甘んじている諸君の奮起を期待したい。
当日は衆議院選挙の投開票日であり、同時に超大型の台風21号が強い勢力を保ったまま紀伊半島付近に近づいてくるという。紀伊半島といえば、僕が働いている田辺市はその中心地。周辺には大雨のたびに大きな被害の出る地域がいくつもある。高速道路が通行止めになり、電車が運転を見合わせることもたびたびだ。6年前には紀伊半島大水害に見舞われ、山林の崩壊事故があちこちで発生し、大きな被害が出た地域でもある。
こういう事態に再び見舞われる懸念があり、同時に選挙の開票結果を入れる紙面も製作しなければならない。編集の責任者としては、ゆっくりフットボールを観戦し、贔屓のファイターズを応援している場合ではないのである。
この十数年、少なくとも関西で行われるファイターズの試合はあらゆる日程に優先させして欠かさず観戦し、応援してきた僕でも、さすがに今度ばかりは勤務地を離れる訳にはいかない。泣く泣く観戦をあきらめ、rtvの画面と、ファイターズのスタッフによるツイッタ-の速報で我慢するしかなかった。
以下は、試合時間中の仕事を放棄し、パソコンの画面にかじりついていた僕の観戦記である。臨場感のないのはご容赦願いたい。
降りしきる雨の中、ファイターズのレシーブで試合開始。この日の先発QBは今季初めて光藤が務める。先週末の練習ではパスとランを織り交ぜたプレーをテンポよく繰り広げ、素人目にも状態が上がってきたことが見て取れた。それを試合で思い通りに発揮できるかどうかに注目していたが、昼間から照明灯に灯を入れなければならないほどの豪雨では、パスプレーを選択することは無謀である。
それは相手も十分に承知している。当然、ランプレーが予測される中で、相手の守備をどう突破して行くか。そこに注目していたが、ふたを開けて見ると、話は簡単だった。
どういうことか。
結論からいえば、能力の高いRB陣を100%の条件で走らせるだけのことだった。ただし、そこにはファイターズならではの仕掛けがあった。例えば、本当のキャリアを相手守備陣から隠すためにドロープレーを多用し、タイミングを変化させながら守備陣の隙間をつく。ボールを手渡す際には、必ずといってよいほど巧妙なフェイクを入れる。時にはボールを手渡したふりをして相手守備陣をRBに引き寄せ、開いた隙間をQBが走る。そんな工夫を随所にちりばめて、陣地を進めて行く。
試合開始直後、RB山口がドロープレーで約50ヤードを独走して相手ゴールに迫る。勢いに乗ってRB高松が残る10ヤードを走り切ってTD。K小川がキックを決めて7-0と先制する。
自陣34ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、山口と高松が交互にボールを運ぶ。時には光藤のキーププレーで相手守備陣の注意をそらす。2度もフォルススタートの反則があったが、委細構わず陣地を進め、仕上げは山口が14ヤードを駆け抜けてTD。14-0とリードして主導権を握る。
しかし、荒天下の試合では何が起きるか予測もつかない。足元は一帯が水たまりのようになっているし、風が強いからキックのコントロールも難しい。何よりセンターからスナップされたボールが揺れるからファンブルが怖い。パスをしたくても雨で視界が遮られるから投げる方も捕る方も難しい。
こんな制約があっては、ファイターズが誇る強力なWR陣も腕の見せ場がない。しかし、役割はある。ブロッカーとなって相手守備陣の足を止め、RB陣に走路を開く。時にはRBの役割も果たす。第1Qの終盤に回ってきたファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、WR前田耕がその役割を見事に演じた。
自陣28ヤードから始まったこのシリーズ。第2Qに入っても、山口、高松、光藤が代わる代わるボールを持って陣地を進める。相手守備陣の目が中央に向いたその隙を突くように前田耕がジェットモーションからボールを受け取り、一気に左オープンをまくり上げる。そのまま30ヤードを駆け抜けてTD。
さらに相手がパントを失敗し、相手ゴール前30ヤードから始まった4回目の攻撃シリーズも高松、山口、中村のRB陣が交代でボールを運び、高松のこの日2本目のTDで仕上げる。気がつけば、攻撃陣はここまで4度の攻撃シリーズをすべてTDに結び付けている。強い雨と風にもひるまず、相手の目を前後左右に振り回し、緩急を付けて攻め続けた戦法が功を奏したのだろう。
攻撃陣の影に隠れてしまう形になったが、守備陣の活躍も見事だった。副将藤木が戻ってより強力になった1列目、同じく副将松本を中心とした2列目、チーム切ってのアスリート小椋が率いる3列目。それぞれが持ち味を出して相手に付け入る隙を与えなかった。
しかし、課題も浮き彫りになった。先発で出場したメンバーと後半になって次々に登用された控えのメンバーとの力の差が埋まっていないことである。この日のように、グラウンド条件の悪い日は、その差が余計に明確になる。高い能力を持つ選手は、少々グラウンドの条件が悪くても力を発揮できるが、試合経験のない選手はそうはいかない。雨や風が気になって力が発揮できないのだ。
それをどう解決するか。チームとしても対策を考えているだろうが、結局はそれぞれの選手の努力にかかっている。一人一人が自らの足りない点を自覚し、目的を持った練習を積むしかない。いま、先発メンバーに名を連ねている選手はみな、そうして自らを追い込み、鍛え上げてきたのである。
次戦には関大、その次には立命との試合が迫っている。能力の高い交代メンバーは多ければ多いほどありがたい。チームとしての選択肢が広がるし、攻撃の幅も広がる。守備でも主力選手を随時交代させながら登用していけば、特定の選手に疲れもたまらず、常に最高のパフォーマンスが期待できる。もちろん、下級生が厳しい試合で経験を積めば、来期以降の備えにもなる。
「ローマは一日にしてならず」。いまは控えのメンバーに甘んじている諸君の奮起を期待したい。
(24)目頭が熱くなった
投稿日時:2017/10/10(火) 09:03
関西リーグ4試合目。甲南大学との戦いは日曜日の午前11時半、キックオフ。今季初めての昼間の試合となった。開始直後は雲に覆われ、まだ涼しさを感じるゆとりがあった。けれども徐々に晴れ間が広がり、気がつけば真夏のような太陽が照りつけている。とても10月半ばとは思えないほどの陽気となったから、スタンドでさえバテてしまった。グラウンドで走り回る選手は大変だったろう。
ファイターズが後半にレシーブを選択し、試合はディフェンスから始まる。その立ち上がり、甲南はランと短いパスを組合わせた攻撃で立て続けにダウンを更新。自陣23ヤードからハーフライン近くまで陣地を進める。これはやっかいなことになりそうかな、と思っている内に相手が反則。攻撃のリズムを自ら崩してしまう。
替わってファイターズの攻撃は自陣10ヤード付近から。その第1プレーはQB西野からWR松井へのロングパス。それを見事にキャッチしてたちまち相手陣45ヤードまで迫る。こうなるとプレー選択の幅が広がる。WR中原への短いパスを決めると次はRB山口が15ヤードを走ってダウン更新。続く攻撃ではRB高松が3ヤードを走った次のプレーは再び松井への15ヤードのパス。残る8ヤードをスピードとパワーに優れた山口が走り切ってあっという間に2本目のTD。K小川のキックも決まって7-0とリードする。
この間、ファイターズベンチはパス、パス、ラン、ショベルパス、ラン、パス、ランと組み立て、たたみかけるように攻め込む。相手守備陣は立ち止まって考えるゆとりがなく、ファイターズペースで試合が進む。相手陣42ヤードから始まった次のシリーズではTE対馬へのミドルパスと高松の18ヤードランで2本目のTD。キックも決め、相手守備陣を寄せ付けない。
すごみを感じさせたのは、第2Qに入って最初のファイターズの攻撃。相手陣39ヤードから西野から前田耕作へのパスで9ヤード、西野のQBドローでダウンを更新すると、次は山口と高松のランで30ヤードまで前進する。相手守備陣にランを警戒させたうえで、次は西野が豪快にゴール右隅に投げ込む。これをスピードのある長身レシーバー松井が見事にキャッチし、TD。相手DBもよくカバーしていたが、松井の力と技が勝った。
2Q終了間際には、西野から前田泰一へ短いパスを続けてゴール前に迫り、時間切れ寸前に小川がフィールドゴールを決めて24-0。
ここまでは力強いファイターズ。攻撃も守備も要所で力を発揮し、完全にペースを握って相手に付け入る隙を与えない。さすがは優勝を争うチームならではの強さと安定感がある。日ごろの上ヶ原での練習に取り組む姿と合わせ、今季も順調に仕上がってきたと一安心した。
ところが、後半に入り、攻守ともに1枚目のメンバーを少しづつ外し、交代メンバーを出してくると、様相は一変する。第3Q最初の攻撃シリーズこそ、QB光藤からTE荒木、WR長谷川へのパス、RB中村のランなど3年生中心の攻撃が機能し、相手ゴールに迫ったが、ハンドオフのミスなどがあって、結局は小川のFGで3点を挙げただけ。続くシリーズも、QB光藤が盛んにパスを投げたが、レシーバーとの呼吸が合わずに攻撃が続かない。
ディフェンスも同様で、甲南の素早いパスと切れのよいランが止められない。じりじりと陣地を進められ、第3Q終了間際にはTDも許してしまった。
上ヶ原のグラウンドでは、チームの練習が始まる前の恒例となっているQBとWRの自主練習で、先発メンバーや主な交代メンバー相手に快調にパスを決め続けている光藤の姿を見ているだけに「どういうことか、2枚目、3枚目相手ではタイミングが合わないのか」と心配になる。試合後、鳥内監督や大村コーチにこの点を確かめると、ともに「その通り。下級生は練習が足らん。授業があるから仕方がないが、この試合、この一球に対する思いも足りてない」「技術的にも大学のレベルには到達していない。ボールを見た瞬間にスピードを落とす悪い癖がついているから、一枚目相手なら通るパスが通らない」と厳しい言葉が並ぶ。
レシーバーは華やかなポジションだから、ミスをすれば目立つ。しかし、ほかのポジションでも目立たない所で未熟なところが目についた。これを「2番手、3番手のメンバーだから仕方がない」といっていては、いつまで経っても成長は望めない。4年生が中心になって、普段から足りないところを注意していくしかない。
立命館に敗れた2年前の悔しさを胸に抱き、ライスボウルで社会人の高いレベルを知って練習に励んでる上級生は何人もいる。そうしたメンバーが「チームに所属していれば立命に勝てる」「甲子園ボウルでも勝てる」と勘違いしている下級生の意識をどう変えていくか。ポイントはそこであり、そこを教訓にしてこそこの試合の収穫もある。
その意味で、僕は第4Qの終盤、4年生LB鳥内のインターセプトで掴んだ相手陣42ヤード付近からの攻撃シリーズを注目した。普段の試合では、ほとんどベンチを温めている4年生が続々と登場したからである。いわば「卒業シリーズ」とでもいうような場面であり、QBには百田、RBには久保田が出ていた。
第1プレーは期待通り百田から久保田へのハンドオフ。そこで久保田が見事なカットバックで約20ヤードを走る。続くプレーも同様、久保田のラン。残る3ヤードを百田から3年生長谷川へのパスでTD。わずか3プレーでTDにつなげたこと以上に、僕はいきなり起用された久保田が2度の出場機会を2度とも素晴らしい走りで締めくくってくれたことがうれしかった。目頭が熱くなった。
彼は龍野高校の出身。身長167センチ、体重73キロ。高校時代はサッカーをやっており、フットボールは未経験だ。しかし、こつこつと練習を積み、選手として4年間をこのチームで過ごした。でも、試合に出してもらえることはほとんどなく、3年生の頃は主としてフレッシュマンの指導を担当、4年生になってからはLBやDBのメンバー相手に「仮想ランナー」の役割を務めていた。小柄で当たりの強さはないが、カットバックに優れているから、LBやDBを振り回す役割が適任と期待されたのだろう。
チーム練習が始まる1時間も2時間も前から、彼は手の空いたLB、DBのメンバーの相手にそうした練習を続けている。時には早めに出てきた下級生RBをその練習に加え、RBにカットの切り方、走り方の指導も同時に務めている。
けれども、1枚目、2枚目のRBには高松や山口がいる。下級生には伸び盛りの渡辺や鈴木、三宅らがいる。なかなか試合に出るチャンスはない。実際、チームタイムが始まっても、彼が攻撃メンバーとして参加しているのを見たことがない。
そういう選手が、いわゆる「4年生シリーズ」で出場の機会を得た。そして2度の機会でともに20ヤードほどを獲得した。合計獲得ヤードは39ヤード。この日出場したファイターズのランニングバックでは一番の記録だった。彼の日ごろの役割、チームへの貢献振りを見てきた人間の一人として、目頭が熱くなったのも当然だろう。
ファイターズが後半にレシーブを選択し、試合はディフェンスから始まる。その立ち上がり、甲南はランと短いパスを組合わせた攻撃で立て続けにダウンを更新。自陣23ヤードからハーフライン近くまで陣地を進める。これはやっかいなことになりそうかな、と思っている内に相手が反則。攻撃のリズムを自ら崩してしまう。
替わってファイターズの攻撃は自陣10ヤード付近から。その第1プレーはQB西野からWR松井へのロングパス。それを見事にキャッチしてたちまち相手陣45ヤードまで迫る。こうなるとプレー選択の幅が広がる。WR中原への短いパスを決めると次はRB山口が15ヤードを走ってダウン更新。続く攻撃ではRB高松が3ヤードを走った次のプレーは再び松井への15ヤードのパス。残る8ヤードをスピードとパワーに優れた山口が走り切ってあっという間に2本目のTD。K小川のキックも決まって7-0とリードする。
この間、ファイターズベンチはパス、パス、ラン、ショベルパス、ラン、パス、ランと組み立て、たたみかけるように攻め込む。相手守備陣は立ち止まって考えるゆとりがなく、ファイターズペースで試合が進む。相手陣42ヤードから始まった次のシリーズではTE対馬へのミドルパスと高松の18ヤードランで2本目のTD。キックも決め、相手守備陣を寄せ付けない。
すごみを感じさせたのは、第2Qに入って最初のファイターズの攻撃。相手陣39ヤードから西野から前田耕作へのパスで9ヤード、西野のQBドローでダウンを更新すると、次は山口と高松のランで30ヤードまで前進する。相手守備陣にランを警戒させたうえで、次は西野が豪快にゴール右隅に投げ込む。これをスピードのある長身レシーバー松井が見事にキャッチし、TD。相手DBもよくカバーしていたが、松井の力と技が勝った。
2Q終了間際には、西野から前田泰一へ短いパスを続けてゴール前に迫り、時間切れ寸前に小川がフィールドゴールを決めて24-0。
ここまでは力強いファイターズ。攻撃も守備も要所で力を発揮し、完全にペースを握って相手に付け入る隙を与えない。さすがは優勝を争うチームならではの強さと安定感がある。日ごろの上ヶ原での練習に取り組む姿と合わせ、今季も順調に仕上がってきたと一安心した。
ところが、後半に入り、攻守ともに1枚目のメンバーを少しづつ外し、交代メンバーを出してくると、様相は一変する。第3Q最初の攻撃シリーズこそ、QB光藤からTE荒木、WR長谷川へのパス、RB中村のランなど3年生中心の攻撃が機能し、相手ゴールに迫ったが、ハンドオフのミスなどがあって、結局は小川のFGで3点を挙げただけ。続くシリーズも、QB光藤が盛んにパスを投げたが、レシーバーとの呼吸が合わずに攻撃が続かない。
ディフェンスも同様で、甲南の素早いパスと切れのよいランが止められない。じりじりと陣地を進められ、第3Q終了間際にはTDも許してしまった。
上ヶ原のグラウンドでは、チームの練習が始まる前の恒例となっているQBとWRの自主練習で、先発メンバーや主な交代メンバー相手に快調にパスを決め続けている光藤の姿を見ているだけに「どういうことか、2枚目、3枚目相手ではタイミングが合わないのか」と心配になる。試合後、鳥内監督や大村コーチにこの点を確かめると、ともに「その通り。下級生は練習が足らん。授業があるから仕方がないが、この試合、この一球に対する思いも足りてない」「技術的にも大学のレベルには到達していない。ボールを見た瞬間にスピードを落とす悪い癖がついているから、一枚目相手なら通るパスが通らない」と厳しい言葉が並ぶ。
レシーバーは華やかなポジションだから、ミスをすれば目立つ。しかし、ほかのポジションでも目立たない所で未熟なところが目についた。これを「2番手、3番手のメンバーだから仕方がない」といっていては、いつまで経っても成長は望めない。4年生が中心になって、普段から足りないところを注意していくしかない。
立命館に敗れた2年前の悔しさを胸に抱き、ライスボウルで社会人の高いレベルを知って練習に励んでる上級生は何人もいる。そうしたメンバーが「チームに所属していれば立命に勝てる」「甲子園ボウルでも勝てる」と勘違いしている下級生の意識をどう変えていくか。ポイントはそこであり、そこを教訓にしてこそこの試合の収穫もある。
その意味で、僕は第4Qの終盤、4年生LB鳥内のインターセプトで掴んだ相手陣42ヤード付近からの攻撃シリーズを注目した。普段の試合では、ほとんどベンチを温めている4年生が続々と登場したからである。いわば「卒業シリーズ」とでもいうような場面であり、QBには百田、RBには久保田が出ていた。
第1プレーは期待通り百田から久保田へのハンドオフ。そこで久保田が見事なカットバックで約20ヤードを走る。続くプレーも同様、久保田のラン。残る3ヤードを百田から3年生長谷川へのパスでTD。わずか3プレーでTDにつなげたこと以上に、僕はいきなり起用された久保田が2度の出場機会を2度とも素晴らしい走りで締めくくってくれたことがうれしかった。目頭が熱くなった。
彼は龍野高校の出身。身長167センチ、体重73キロ。高校時代はサッカーをやっており、フットボールは未経験だ。しかし、こつこつと練習を積み、選手として4年間をこのチームで過ごした。でも、試合に出してもらえることはほとんどなく、3年生の頃は主としてフレッシュマンの指導を担当、4年生になってからはLBやDBのメンバー相手に「仮想ランナー」の役割を務めていた。小柄で当たりの強さはないが、カットバックに優れているから、LBやDBを振り回す役割が適任と期待されたのだろう。
チーム練習が始まる1時間も2時間も前から、彼は手の空いたLB、DBのメンバーの相手にそうした練習を続けている。時には早めに出てきた下級生RBをその練習に加え、RBにカットの切り方、走り方の指導も同時に務めている。
けれども、1枚目、2枚目のRBには高松や山口がいる。下級生には伸び盛りの渡辺や鈴木、三宅らがいる。なかなか試合に出るチャンスはない。実際、チームタイムが始まっても、彼が攻撃メンバーとして参加しているのを見たことがない。
そういう選手が、いわゆる「4年生シリーズ」で出場の機会を得た。そして2度の機会でともに20ヤードほどを獲得した。合計獲得ヤードは39ヤード。この日出場したファイターズのランニングバックでは一番の記録だった。彼の日ごろの役割、チームへの貢献振りを見てきた人間の一人として、目頭が熱くなったのも当然だろう。
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