石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(27)激闘

投稿日時:2017/11/08(水) 10:22

 長い間フットボールを見てきたが、先週末の関大戦では、生まれて初めて出合った驚愕のプレーを生で見る感動を味わった。
 それは第2Qの終了間際、相手のキッカーがフィールドゴール(FG)を狙って蹴ったボールをゴールライン内でキャッチし、グラウンドの左を突き、右サイドに切り返して、そのまま自陣ゴールまで100ヤードを走り切ってTDに持ち込んだDB小椋のプレーである。
 あらかじめFGが外れることを予期してゴールポスト近くに彼だけを配置したベンチの作戦もすごいと思ったし、予測通りにゴールから外れたボールをキャッチした小椋が走れるように、執拗に相手守備陣をブロックし続けたキッキングチームもすごかった。そして何よりも素晴らしかったのが、ファイターズでも1、2を競うアスリート小椋。FGを狙ったボールが外れると、ゴールポストのすぐ右側でキャッチ。一度左に展開し、走路が詰まっていると見た瞬間、右サイドに切り返し、トップスピードに乗ってからは、一気にライン際を駆け上がった。
 とっさの判断力とそれを支える身体能力。さらには、相手守備陣を翻弄した強力なブロッカー陣。双方が完璧にフォローしあって、世にも珍しいFGリターンTDが完成した。
 試合後、どの記者よりも早く小椋君に近付き「あんなプレー、最初から想定していたの」と聞くと、「いやー、とてもそこまでは。でも、一度左を突いて、即座に右に切り返す場面は、カレッジフットボールのビデオでもたまに見掛けるので、チャンスがあったらやってみたいと思っていました」という答えが返ってきた。
 でも、表情からは「してやったり」というオーラが全開。普段から気合いを入れて取り組んできた成果だと僕は受け止めた。
 そういえば、この場面が目の前に現れた直後のハーフタイムのことである。この日、競技場内のFM放送を担当されていた小野ディレクターから「鳥内監督から常々、フィールドゴールからのリターンは、狙ってみる価値があると聞かされてきた」「FGを狙う場面では通常、キッカーを守るために強力なラインのメンバーを揃える。体はデカイが走るのが苦手な選手が多いということだ。最初にぶつかる走力のあるメンバーを交わしてしまえば、きっと独走のチャンスが来るという理屈だ」という話を聞いた。
 その話を聞いて「なるほど、そういう仕組みか。これはぜひとも、小椋君に取材しなければ」と思ったのである。
 さて、試合に戻ろう。
 先週の日曜日は、関西大学との決戦。両チームの対戦は毎年、その年の戦力とは関係なく、ライバル意識をむき出しにした激しい戦いになる。関大が3勝2敗、ファイターズが5連勝で迎えた今年も、期待に違わず、一進一退の厳しい戦いになった。
 ファイターズのレシーブで試合開始。最初の攻防は両チームともに決め手がなく、2度目の攻撃シリーズは自陣40ヤードから。まずはRB高松が8ヤード、山口が10ヤードを走って相手陣に入り、次はQB西野がWR亀山に10ヤードのパス。残り32ヤードから西野が相手ゴールにパスを投げ込んだ。これを長身WR松井が見事にキャッチ、K小川のキックも決まってファイターズが7-0とリードする。
 関大も負けてはいない。すぐさま反撃に転じ、ファイターズ守備陣の手痛い反則もあって、わずか7プレーで同点に追いつく。予想はしていたが、難しい試合になりそうだ。
 案の定、双方とも守備陣が健闘して、しばらくはセンターラインを挟んでの力比べが続く。ようやく第2Qの後半、突破口を開いたのはファイターズ。自陣46ヤード付近から始まった攻撃を西野から松井へのパス、高松の18ヤードラン、西野のドロープレーで一気に空いてゴールに迫り、仕上げは高松がゴールに走り込んでTD。再びリードを奪う。しかし、TD後の1点を狙ったキックが蹴れず、ここは6点止まり。TD1本で逆転の可能性を残してしまった。
 思わぬ展開に動揺するファイターズ守備陣。その隙をついて関大が反撃。2Q終了直前、47ヤードのFGを狙う。相手キッカーが蹴ったボールは見事にバーを越え、ゴール成功、と思った瞬間、関大側に反則のフラッグ。10ヤードの罰退がコールされる。あえて57ヤードのFGに賭けるか、それとも一発逆転を狙って起死回生のプレーを選択するか。
 高い能力を持つキッカーを有する関大サイドが選んだのは、再びのFGチャレンジ。渾身の気合いを込めて蹴ったところで、冒頭の場面につながる。
 ともあれ、相手が最初のFGで反則を犯していなかったら、前半は13-10。ファイターズ3点リードで終わるところだったが、2度目のFGは失敗し、逆にファイターズがキックリターンTDと2ポイントのプレーを決めたことで一気に21-7と差が開いた。
 迎えた第3Q。関大最初の攻撃シリーズはFGによる3点。その直後、ファイターズの攻撃は、相手キックがタッチバックとなり、自陣25ヤードから。最初のランプレーこそ進まなかったが、第2プレーで西野からのパスを松井がキャッチして19ヤードを前進。次はRB山口がドロープレーから相手守備陣を抜き、44ヤードを独走。ランプレーを挟んで西野のQBドロー。WR前田泰のブロックも決まって余裕のTD。小川のキックも成功して18点差をつける。
 しかし、関大の闘志も衰えない。ファイターズ守備陣の反則にもつけ込んで一気に陣地を挽回。第4Q開始早々にTDを返して追い上げる。
 相手が勢い付いてくれば、ファイターズの攻撃陣も奮起する。今度は自陣27ヤードからQB光藤がドロープレーで守備の第一列を突破、巧妙にブロッカーを使って63ヤードを独走する。残る10ヤードを山口が突破してTD。わずか3プレーで再び18点差。一息ついたと思ったが、即座に関大も反撃。あわやTDかと思わせるようなリターンで陣地を進め、即座にFGを決めて再び追い上げる。
 やっかいなことになってきた。オンサイドキックを決めて攻撃権をとられると、たちまち守勢に回ると心配していたら、案の定、相手も短いキックを仕掛けてくる。ここは、前田泰が冷静にキャッチして、ファイターズはセンターライン付近からの攻撃。
 まずは高松が13ヤードを走り、次は光藤から松井へTDを狙った長いパス。相手DBがたまらずインターフェア。残り22ヤードから山口が中央を突破し、あわやTDというところまで走り切る。残る数インチを高松が走り込んでTD。点差を22点に広げる。この辺り、攻める方は両チームとも完全に「ゾーンに入った」状態。互いに一歩も譲らず、トップレベルの個人技で点を奪い合う状態である。
 その証拠が次の関大の攻撃。小川がゴールラインまで蹴り込んだキックを捕った相手リターナーが、今度は一気に100ヤードを走り切ってリターンTD。再び14点差となって、勝負の行方は混沌としてくる。
 これを断ち切ったのが、ファイターズのディフェンス。残り時間約3分、ファイターズゴール前7ヤードという場面で、DB吉野が起死回生のインターセプト。一気に46ヤードをリターンしてようやく激戦に決着をつけた。
 それにしても12分計時の試合、それも優勝の行方を左右する試合で、双方ともに100ヤードのリターンタッチダウンを決めるなんて、劇画でも想像できないような派手な展開である。一つ一つのTDのシーンを見ても、双方が練りに練ったプレーを選択し、それに選手がきっちり応えて互いに点を奪い合う。互いのベンチが強力な決め手を持った選手を惜しみなく投入し、その期待にそれぞれの選手が応えてくれたからだろう。
 ファイターズの攻撃でいえば、強力な突破力を持つRBの山口、スピードに乗ってキレキレの走りをする高松。それを支えたOL陣とTEの三木。高いパス捕球能力とブロック力を兼ね揃えたレシーバー陣。前半は西野、後半は光藤が出場し、それぞれに見せ場を作ったQB陣。守備でいえば柴田、藤木、寺岡、三笠が先発したDL、残念な反則が二つもあったが、それを引きずることなく踏ん張った松本、海崎らのLB陣。そして終始、守備のリーダーとして活躍したDB小椋。最後の最後で男を上げたDB吉野……。
 そうした選手が攻守ともに強力な決め手を持つ関大を相手に存分に力を発揮したことは心強い。次節、立命館との決戦に向けて、彼らに続く選手が一人でも多く出て欲しい。期待し、注目して待っている。

(26)練習の質と量

投稿日時:2017/10/29(日) 07:11

 平日、ファイターズの練習は、原則として午後5時半からスタートする。4時限(午後3時10分~4時40分)の授業を受けた部員が練習着に着替え、テーピングなどを施し、入念な準備運動を終えて、万全の態勢でスタートできるように、授業終了から50分のゆとりを持たせているのである。
 もちろん、上級生を中心に単位の取得の進んだメンバーは、授業が3時限(午後1時半~3時)で終わることが多い(というか、3時限目までに終了する授業を計画的に履修している)。そういうメンバーは午後4時にはグラウンドに降りて、それぞれがダミーにぶつかったり、軽くダッシュを繰り返したりしながら、練習相手の準備が整うのを待っている。
 その中で、いつもグラウンドの中央に広い場所をとって練習しているグループがいる。上級生のWR、TEとQBである。4時になると順次グラウンド中央に集まり、準備のできた選手から順にパスの練習に入っていく。時にはボールの感覚を養うためにRBやDBも参加し、やがて下級生も加わって、パスに特化した練習が本格的に始まる。
 QBは高いパス、低いパス、ターンボールなどを右に左に投げ分け、レシーバーは猛スピードでそれを追いかける。驚くのは、上級生が先発、控えに関係なく、まったくといっていいほどボールを落とさないこと。明らかな投げミスは別だが、不用意な落球はほとんどない。
 もちろん、不用意にボールを落とす選手もいる。しかしそれは、けがから復帰したばかりでキャッチする時の感覚が戻りきっていない選手や授業の関係でこの練習に参加する機会が少なく、練習量が絶対的に足りていない1、2年生に限られている。
 ファイターズのレシーバー陣には学生界でも屈指のメンバーが揃っている。長身の亀山、松井。ここ一番で便りになる前田泰、4年生になって急激に力を付けてきた前田耕、中原、安在。3年生には伸び盛りの小田や長谷川もいる。投げる方にも4年生には強肩の百田、3年生の光藤、西野はパスもランも状況判断も一級品だ。
 これにタイトエンドやRBが加わって延々とパスを投げ、受ける練習を続ける。それも、ただ練習前に体を温めるというレベルではなく、この一球で試合を決めてやる、という覚悟での練習である。
 受ける方も投げる方も関西リーグでもトップクラスのメンバーが、より高いレベルを求めて取り組むから、練習自体の質が高い。日々、そうした環境で競争しているから、レシーバーのパスを捕球する能力はより磨かれ、投げる側のパスの精度も上がってくる。
 10年ほど前にも、QB三原君を中心にWRの榊原、秋山、萬代君らが練習開始の2時間ほど前から似たような練習をやっていた。そのときは、1球の捕球ミスがあればそのレシーバーが、投球ミスがあればQBが自発的に10回の腕立て伏せを自らに課し、互いに高め合っていた。その結果が4年間遠ざかっていた甲子園ボウルに勝ち、ライスボウルでの「史上最高のパスゲーム」につながったことは記憶に新しい。
 当時の練習法を引き継いだようにも見えるが、当時とは決定的に異なることがある。それは、まだ試合に出るだけの能力が磨かれていない下級生の多くが、時間の都合さえつけばこの練習に参加していることである。下級生にとっては、手の届かないほどに思える質の高い練習だが、いつでもその練習に加わり、そこで先輩たちをお手本にして学ぶことができる点が、4年生が中心だった10年前との違いである。学ぶは真似ぶ。つまり、学習は模倣から始まる。いわば、教育の起源のような練習が上ヶ原の第3フィールドで日々展開されているのである。
 しかし、WRに限らず、下級生の多くは4時限、5時限にも授業を抱えている。この時間帯には厳しく出席をチェックされる語学の授業も多いので、なかなかチーム練習前のパート練習に参加する時間的な余裕がない。その結果、せっかくグラウンドで質の高い練習が繰り広げられているのに、下級生の多くはそれを間近で体験する機会が限られてしまうのである。まことに残念なことである。
 前回のコラムで、僕は「交代メンバー頑張れ!」と、いまは控えに回っているか下級生に奮起を促した。しかし、そんな声をかけたところで、肝心の練習時間が確保出来ないのでは、日々練習を重ねている上級生との差は開くばかりである。なんとか下級生にも練習の時間を確保できるように、知恵をしぼり、工夫を凝らすことはできないものか。
 先年、プリンストン大学と交流試合をしたときのシンポジウムで、同大学で課外教育に責任を持つアリソン・リッチ・学生生活部体育局副局長が講演し、同大が学生に対して課外カリキュラムに取り組むよう強く推奨していること、90%の学生が体育会や文化・芸術のクラブ活動を体験して卒業すること等を説明した中に、同大が午後4時半から7時半までは授業を組まずに課外活動の時間として設定している、ということが含まれていた。学生に課外活動への参加の機会を保障することが目的である。これは、逆に活動時間を限定するという側面もあるが、私にはとても印象に残った。
 (講演内容は以下のURLにあります)
 https://gap.kwansei.ac.jp/activity/2015/attached/0000077155.pdf
 この点に関して、本来、大学が考えられることであり、僕のような部外者があれこれ提案することではない
と理解している。いまは、有能な上級生から下級生が学べる機会をなんとかして作って欲しいとお願いするだけにしておこう。
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