石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(11)コーチの目と頭脳

投稿日時:2018/07/19(木) 09:21

 僕の働いている紀伊民報では、週明けの朝が一番忙しい。編集の責任者として、その週の仕事の段取りを整え、自分の担当するコラムを書かねばならない。週末に記者が書いてくれた硬派の原稿に手を入れる作業も待っている。だから僕が朝日新聞を定年で辞し、この会社にお世話になってから14年間、正月やお盆の休刊日に当たる年以外に、月曜日は(それが祝日であったとしても)一度も休んだことがない。当然、講演の依頼があっても受けないし、会議などの予定も入れない。
 ところが、今年は違った。朝日カルチャーセンターで毎年夏、小野宏ディレクターが担当されている「アメリカンフットボールの本当の魅力」という講演会がこの日の昼に開かれることになったのだ。その日は3連休の最終日。普段は参加できない遠方の方々も昼間なら参加できるのではないかという主催者と講師の配慮から決まったという。
 「えっ! 俺とこ、一番忙しい日やで!」とカルチャーセンターの担当者(不肖、僕の娘です)に苦情を言ったけど、後のまつり。もう会場は確保しているし、日程も変更できないという。
 ならば、僕の仕事の段取りを変えるしかない。木曜日の夜に田辺から西宮に戻り、金曜日は関西学院で担当している前期最後の授業。その夜はこの秋、スポーツ選抜入試に挑む高校生を対象にした小論文の勉強会。二つの仕事をつつがなく終えて土曜日の早朝には、和歌山県田辺市にある新聞社にUターン。週明けの仕事の段取りを済ませ、月曜日と火曜日に掲載するコラムも仕上げた。月曜の朝も8時に出社し、9時半までには実務を終えて会社を出発。一気に会場のある阪急・川西能勢口駅前まで車を走らせた。
 苦労して参加した講演会は、聞き応えがあった。小野さんはこの6年間、連続してこの講演会を担当されているが、今年は昨年秋、ファイターズが2度に渡って死闘を繰り広げた立命館との試合が中心。それも、11月19日のリーグ戦では21-7と完敗したファイターズが、2週間後の西日本代表決定戦では34-3と圧勝した、その理由にしぼっての解説だった。
 なぜ、1戦目に完敗したチームが2戦目では勝てたのか。そこにどんな仕掛けがあったのか。監督やコーチ、選手やスタッフはその2週間をどのように過ごし、どうモチベーションを高めてきたのか。
 それをチームのスタッフが撮影したビデオを再生しながら、「コーチの目、コーチの頭脳」を駆使した解説が続いた。チームを支える名もなきヒーローの話やフットボールの特性に関する奥の深い説明もあった。これを会場に来られた方たちだけの「記憶」にしておくのでは余りにもったいない。そう考えて、よく整理されたレジュメに沿って、その内容の一端を報告することにした。
 まずはリーグ最終戦、最初のパスプレー。立命が見せたとっておきの第1プレーはなぜ成功したのか。シーズン中、けがでほとんど試合に出ていなかったエースRB西村の回復状況をどのように捉えるかという両チーム首脳のやりとりから始まり、相手オフェンスはどのようにして守備陣に対する数的優位を作り出したのか。逆に、ファイターズ守備陣はなぜ相手の動きを止めきれなかったのか。そういったことについて、具体的な選手の動きをビデオで再生しながら解説していく。
 その解説が受講生の頭に入った頃を見計らって、続くとっておきの第2プレーの解説に入る。今度は相手のエースRB西村が左サイドを駆け上がり、あわやTDというところまで走ったのだが、なぜ簡単に走路が空いたのか。ファイターズの守備陣がなぜ適切に対応できなかったのか。そういったことについて、これまた双方のベンチの思惑から選手の心理状態まで含めた解説が続く。
 逆に、立ち上がり、相手の思惑通りに先取点を与えてしまったファイターズの攻撃は、ほとんど進まない。その理由は何か。相手がファイターズの攻撃パターンをよく整理して準備していたことを、繰り返しビデオを見せながらの解説していく。
 そうした話に区切りが付くと、今度は西日本代表決定戦でのファイターズのプレーを中心にした解説が始まる。
 その間、一息入れるようなタイミングで、大村アシスタントヘッドコーチから取材したとっておきの話が紹介される。こんな内容である。「立命を相手に2試合を戦うことを前提に、2試合分のプレーを準備してきた。新しいプレーのうち、成功する確率の高いもの2試合目に備え、1試合目はそれ以外のプレーでやった。決して(1試合目を)捨てているのではなく、それでもある程度は勝てると考えていた。正直、相手守備の準備が素晴らしかった。出ると思ったプレーがどれもうまく対策を立てられて止められた。(前半で大きくリードされる)あの展開になって、後半は新たなプレーを出すことは控えた」
 そうした覚悟の中で迎えた西日本代表決定戦。今度は、ファイターズが先攻となり、先制点を狙って攻撃がスタートする。しかし、最初のランプレーは相手守備陣に押し込まれてロス。今日も押されるのか、という沈んだ気持ちを吹っ切るように、2プレー目にRB山口のスーパー個人技が出る。自陣のゴール前13ヤード。苦しい位置からのランプレーだったが、一度、中央で潰されたように見えながら、素早しいバランス感覚で体勢を立て直して左サイドに抜け出し、そのまま58ヤードを走った。
 このチャンスに、初戦では「成功の可能性の高いプレーは温存していた」というプレーが炸裂する。QB西野からWR前田へのスクリーンパスである。この場面についても、何回もビデオを再生しながら克明な解説が入る。相手守備陣を幻惑させてレシーバーをフリーにさせ、そこにパスを投げ込むプレーだったが、コーチの考えとプレーヤーの動きが見事に一致し、タッチダウンとなる。のどから手が出るほど欲しかった先取点を挙げて意気が上がるファイターズと「前回とは様子が違うぞ」と戸惑う相手守備陣。その後も、ファイターズは前回の敗戦後に開発したプレーで守備陣を惑わせ、結果、前半だけで21-0とリード。試合の大勢を決めた。
 こうしたチーム内の裏話を盛り込みながらの明晰な解説を聴きながら、現場を預かるコーチたちの目の付け方とそれを基に彼我の関係を冷静に分析し、対策を立てる頭脳にあらためたて感心した。
 そしてチームを指導する現場からは距離を置きながら、ビデオの分析と、コーチからの取材を基に、一つ一つのプレーの意図と内容、そしてそのプレーが試合結果にどうつながるか。プレーコールの駆け引きからプレーデザインの競争、ゲームプランの質の競争。そして、年間を通じたグランドデザインの大切にまで言及し、分かりやすく解説してくれるディレクター。
 フットボールにおけるコーチの存在の大きさを再確認すると同時に、一つ一つのプレーを分析し、それぞれが持つ意味を具体的な言葉にして語れる人が存在するチームの素晴らしさをあらためて知った。年々講演会への参加者が増え、今年は過去最多の200人もの聴衆が集まったという理由もよく分かった。

(10)ファイターズの流儀

投稿日時:2018/06/30(土) 23:02

 金曜日には僕の担当している授業がある。担当は2時限(11時10分開始)と3時限(13時30分開始)の2クラスだが、たまたまほかの用事もあって、朝の9時に大学に着いた。
 速攻で用事を済ませ、G号館(その昔、硬式野球のグラウンドのあった場所にできた比較的新しい建物。国際学部や人間福祉学部がある)1階のスターバックスに向かう。
 ホットコーヒーを購入し、空いた座席に座ると、前の席に大柄な学生がノートに向かって何事かを書き連ねている後ろ姿が見える。「朝早くから勉強か。まじめな学生だな」と思って、コーヒーに口を付ける。僕も文庫本を取り出して読み始めようとしたとき、その学生が立ち上がる。思わず顔が合う。4年生のスナッパー、鈴木邦友君である。
 「おはよう。朝早くから頑張ってるね」と声を掛ける。「ええ、いまから大村コーチとミーティングです。そのための準備をしていました」と明るい声が返って来る。そうか、先ほど熱心になにやらノートに書き込んでいたのは、そのための準備だったのか。そう思った途端に、先週のコラム「けが人先生」を編集者として最初に読んでもらった小野ディレクターから聞いた話を思い出し、しばらく立ち話をする。
 「これは小野さんから教えてもらったことだけど、4年生になって下級生を指導する立場になると、教える側のプレー理解が一気に進むそうだ」「自分が体感、体得したものを言葉に表すために論理化する。その作業によって教える側の頭が整理される。つまり、下級生に教えることは、同時に自分の学習効果を高めることにつながる」
 「だからいま、キッキングチームのアイデアをノートに書き込んでいることが、そのまま自分の成長にもつながるということ。頑張ってな」
 そんな言葉を掛けた。
 聞けば、彼は希望していた総合商社への就職も決まり、卒業単位の心配もない。後はフットボールに専念するだけという。その具体的な行動の一つとして、早朝から、コーチとのミーティングの準備をしていたのだ。
 彼だけではない。ファイターズではこういう4年生が各パートでそれぞれ、自分たちがいま成さねばならないことに集中して取り組んでいる。どうしても勝ちたい。日本1のチームをつくりたい。そのためにプレーヤーとして自身を成長させると同時に、下級生たちにどのように働きかけ、チームとして実現させていくのか。そういうことを4年生全員が選手もスタッフも関係なく、寝る間も惜しんで考え続けている。
 自分たちで考えるだけでない。具体的なアイデアを持ってコーチに説明し、それを実現させるための助言を受ける。その具体例を目の当たりに見て、思わず、鳥内監督がつねづね口にされている「君らが勝ちたい、いうから、僕らが手伝ってんねん」という言葉を思い出した。
 ファイターズとはこういうチームである。監督やコーチが無理やり部員を鋳型に押し込むのではない。上級生が力で下級生を押さえ込むのでもない。いまも日本のスポーツ界に根を張る古い因習とは全く無縁のチームとしての誇りを日々の実践を通して力に替える組織である。
 戦後の草創・発展期に10年間監督を務められた米田満先生から、ことあるごとに聞いた言葉を思い出す。
 「関学のアメリカンといえば、戦後、軍隊から戻ってチームを再興し、1947年、48年と2年連続して主将を務めた松本庄逸さんの影響が大きい。グラウンドに立てばポツダム中尉の威厳があって、恐ろしく怖い存在だったが、ふだんはみんな兄弟や、仲良くやろうと言い続けた。その言葉、その精神がいまも連綿とチームに受け継がれている」。こういう言葉である。
 上級生が良き先輩として、下級生を丁寧に指導する。それによって自らの学習効果を高め、フットボールについての理解を深める。上級生、下級生の双方が響き合ってチームとしての力を高め、そこに指導者が養分となる助言を惜しみなく注ぎ込む。日々、そうした営みを続けて目標の高い山に登っていく。
 そういうファイターズの流儀、内部教育システムの一端を朝早く、すっきりした頭でプレーのアイデアをノートに書き込む鈴木君の姿に見て、どうしてもこのコラムで紹介したくなった。
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