石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(4)ファイターズの道

投稿日時:2018/05/13(日) 07:45

 今日、関西学院大学で開かれたファイターズの記者会見に出席。5月6日の日本大学との定期戦における「日大選手による反則行為」に関するファイターズの見解と主張をじっくりと聞かせていただいた。
 すでに新聞やテレビの報道、それにネット上の多様な書き込みによって、問題の発端となった日大選手の反則行為についてはご承知の読者も多いとは思いますが、あえて私見を述べさせていただきます。フットボールを愛し、ファイターズのチーム作りに全幅の信頼を置いている老人の繰り言になるかもしれませんが、おつきあいいただければ幸いです。
 まず、記者会見でファイターズから配布された資料の要旨を箇条書きで紹介します。
?当該の反則行為について、試合後にビデオ映像で確認したところ、関学のQBがボールを投げ終わって約2秒後に、相手DLが背後からタックルをしている?当の選手はボールには一切反応せず、QBだけをめがけて突進し、プレーが終わって力を抜いている状態の選手に全力で突き当たったうえ、倒れた選手の足をねじっている?これはプレーとはまったく関係なく、当該選手を傷付けることだけを目的とした意図的で極めて危険、かつ悪質な行為である?このDLはその2プレー後、及び4プレー後にもそれぞれパーソナルファールの反則を犯し、3回目の反則で資格没収となったが、試合後の日大監督のコメントは、これらの反則行為を容認するとも受け取れる内容だった?ファイターズは10日付けで日大アメリカンフットボール部の部長及び監督に対して厳重に抗議する文書を送った?その内容は・日大DLの関学QBへの1回目のパーソナルファールに対するチームとしての見解を求めると同時に、関学QB及び保護者へのチームからの正式な謝罪を求める・日大の監督が試合後にメディアに対して出したコメントに対する見解とコメントの撤回及び前項の行為が発生したことについての指導者としての正式な謝罪を求める……といった内容です。
 これとは別にファイターズは、11日付けで関東学生連盟にも「連盟が規律委員会を設けて詳細を調査するとのことでありますが、その調査の過程で弊部へのヒアリングを強く要望します」という内容の要望書を提出したことも明らかにしています。
 文章にすれば、長々とした説明になりますが、以上の件の大半は、ファイターズが記者会見で提供したビデオ映像を見れば一目で理解できます。
 すでにSNSやネット上では、問題の場面が何度も再生されていますので、機会があれば見ていただきたいのですが、僕は今日の会見で記者のために繰り返し再生されたビデオを見て「これはアウト。ネットで『殺人タックル』という言葉が飛び交っている理由がよく分かる」と思いました。
 同時に、この記者会見が開かれる何日か前に書いた僕のコラムは、一字一句修正する必要がないとも確信しました。
 このコラムを書いているのは12日の夜ですが、実はこの週の半ばにこの問題に関して自分なりの考えをまとめ、デスクとして原稿をチェックしていただいている小野ディレクターに送信していました。しかし小野さんからは「この問題に関しては、チームとして見解をまとめ、対処しようとしているところです。土曜日に記者会見を開きますので、それまでは原稿を預からせて下さい」という話があり、僕もそれを了解して一端はボツにしていたのです。
 記者会見も終わり、チームとしての見解が正式に公表されましたので、ボツにしていた原稿の一部を再生させていただきます。概要は以下の通りです。
 ……そもそも大学における課外活動とはどういう意味を持っているのでしょうか。大学、高校などでは通常、課外活動という言葉を使っていますが、もう一歩進めて、課外教育と捉えた方がより分かり易く、目的も明確になるのではないでしょうか。
 多くの学生はいま、大学での学びと並行して部活動に熱中しています。オリンピックに出場するような選手もいれば、常に大学のトップを競うファイターズのようなチームもあります。一方で、部員が揃わずに苦労しているクラブもあります。一口に部活といっても、その内実は千差万別です。けれども、それぞれ状況は異なっても、一つの競技に打ち込み、自分を鍛え、高めようと取り組んでいる点においては、体育会に所属するすべての部員が共通の土俵に立っているといってもよいでしょう。
 その共通の土俵とは何か。スポーツを通じて身体を鍛え、強い心を育むこと、仲間との友情を育み、生涯の友を得ること、ライバルに敬意を表し、互いに最高の状態で戦うことといってもいいのではないでしょうか。
 そこからは、相手を傷つけてもよい、再起不能にしてもかまわない。どんな手段をつかってもよいから勝て、といったような発想が出てくるはずはありません。
 その意味で、いま問題になっている日大の選手のプレーは、当該選手の問題だけでなく、指導者の問題、組織の問題と合わせて総合的に捉えなければ真実は見えてこないのではないでしょうか。
 今回の問題で僕の脳裏に浮かんだのは、プリンストン大学の選手やコーチ、体育局の指導者のことでした。彼らは2015年春、ファイターズの招きで来日し、親善試合やシンポジウムを通じて爽やかな交流をしてくれました。試合では圧倒されましたが、彼らが見せてくれた課外教育やボランティア活動に取り組む姿、勉学と両立させながらの練習や試合への取り組みなどを思いおこすと、今回の事例との距離は天と地ほどの開きがあります。
 今回のことは、思い返すだけでも腹立たしいことです。けれども日本の大学の課外活動の現実と限界を見せつけてくれたという意味では、一つのエポックになるはずです。
 それを信じて、学生たちの心身の成長、発達を促すための組織づくりに突き進んでいきましょう。関西学院の課外教育のよきモデルとしての道を歩みましょう。大学当局にも、大学スポーツ界にも、必ず目の見える人はいるはずです。もちろんファンの目も確かでしょう。
 いまは「一粒の麦」かもしれませんが、今日の記者会見で蒔かれたこの麦が日本の学生スポーツ界の現状に風穴を開けることを信じて疑いません。合い言葉は「どんな人間になんねん」(by鳥内監督)です。

(3)開幕戦

投稿日時:2018/04/25(水) 10:11

 21日は待ちに待った開幕戦。明治大学との対戦である。
 シーズンの初戦といえば、選手でもないのにやたらと緊張する。先発メンバーにはどんな顔ぶれが並ぶのか。実績のある選手が出場するのか、それとも今季に期待されるメンバーを思い切って登用するのか。僕が密かに期待しているメンバーは、先発は無理でも、交代メンバーとして出場機会がもらえるのか。そこで物怖じせずにプレーができるのか。
 これは毎年のことだが、前年のイヤーブックを繰りながら、それぞれの選手の顔を思い浮かべ、日ごろの練習振りの記憶をたどって、注目選手の名前を頭に刻んでおく。いくら仕事が忙しくても、これだけの作業をきちんと済ませておくと、応援が数倍楽しくなる。
 開幕戦を前に、今季、僕が注目していることの一端を箇条書きにしてみよう。
 ?QBは誰が先発するのか。常識的には昨年から活躍している4年生の西野か光藤ということになるのだろうが、初戦前の練習では主として新2年生の奥野が務めていた。昨秋は1軍の練習台になるJVチームとして一軍の選手を翻弄していたQBである。その華麗なステップと正確なパスを見てきただけに、シーズンの初戦を任されて、練習時の力が発揮できるのか。第一に注目した。
 ?同じく攻撃では、春からレシーバーの練習に入り、パスキャッチの練習に余念のなかったQBの西野やRB山口らが本当にレシーバーとして出場するのか。ひょっとしたら、秋のリーグ戦を見据えた練習かも知れないが、実際にWRとして起用される可能性がないともいえない。そこで練習通りに見事なキャッチができるかどうか。これも見逃せないポイントである。
 ?昨年の先発メンバーから井若君と池田君が卒業したOLには、どんな顔ぶれが並ぶのか。とにかくけが人が出やすいポジションだけに、試合に出られるメンバーは多ければ多いほど助かる。昨年から先発しているメンバーに加えて、先日の紅白戦(青白戦)で元気なプレーを見せた3年生の藤田統や2年生の高木慶がどんな活躍をしてくれるか。ここも目が離せない。
 ?守備では誰が先発するのか。DLもLBも再建色が強い。絶対的な守護神、小椋君が抜けたDBの穴を誰が埋めるのかも興味深い。裏返せば、昨年まで先発の座をつかめなかった4年生はもちろん、3年生や2年生にも下克上のチャンスがあるということだ。交代メンバーとして出場する選手を含めて、この試合はそれぞれの存在感をアピールする絶好の機会である。そのチャンスをつかむのは誰か。興味が深まる。
 ?この試合前、今季初めて背番号をもらった2年生が6人いる。攻撃ではQB奥野、RB鈴木、RB三宅、WR大村。守備ではLBの海崎、繁治である。彼ら「第一種選抜」のメンバーがどれほどの活躍をするのか。そこもチェックしなければならない。
 ?そして最後は、昨年、未経験者としてファイターズに入部し、1年間体力づくりにいそしみ、フットボールというスポーツを理解することに専念してきたメンバーがどれほど成長したか。高校で野球やラグビー、バスケットボールをやっていた面々の中からどんな選手が頭角を現すか。第3フィールドの練習では、すっかりチームに溶け込んでいるだけに、いざ実戦という場面でその恵まれた資質を開花させるかどうか。個人的には、ここに一番注目した。
 さて試合である。ファイターズのレシーブで始まる。QBは予想通り奥野。驚いたのはWRにエースQBの西野が入っていること。レシーバーとしての練習にはしっかり取り組んでいたが、まさか先発で来るとは思わなかった。
 新しいメンバーが多いせいか、立ち上がりの攻撃は2シリーズとも不発。ダウンが更新できず、2度ともパントに追い込まれる。
 逆に、明治はこの試合に向けて十分に準備してきたのだろう。緩急を付けたラン攻撃でファイターズ守備を左右に揺さぶり、合間に的確なパスを通す。第2シリーズ目、自陣37ヤードから始まった攻撃をTDに結び付け、キックも決まって7-0。
 あれれ、やばいぞ。そういう空気を今度はファイターズが一瞬で変える。自陣36ヤードから始まった攻撃でRB山口が58ヤードを独走してTD。キックも決まって同点に追いつく。
 しかし、明治の士気は衰えない。ファイターズのパントをキャッチしたリターナーが素早い動きで関学陣22ヤードまでリターン。これをFGで仕上げて10-7。いとも簡単に主導権を奪い返す。逆に言えば、ファイターズが受け身を強いられているということだ。
 それでも次のシリーズ。RB渡邊の好リターンで陣地を挽回。奥野からWR山下へのパス、RB鈴木のランなどで陣地を進め、最後はK安藤が45ヤードのFGを決めて再び同点。
 試合は振り出しに戻ったが、ここで明治に手痛いミスがでる。パント体型からスナップされたボールがそのままゴールラインを割り、ファイターズにセーフティーの2点が加算された。さらに第2Q終了間際には、K安藤が再びFGを決め、15-10でファイターズがリードしたままハーフタイム。
 後半になると、コーチ陣から何らかの指示が出たのだろう。ファイターズ守備陣の動きが一気によくなる。LB藤田優の強烈なタックルやDB西原の素早いパスカバーで相手攻撃を完封。即座に攻撃権を取り返す。前半、手段を尽くして攻め込んでくる相手の動きに翻弄されていた守備陣とは思えないほどのかわりようである。
 攻撃陣もそれに呼応して再び安藤が47ヤードのFGを決めて点差を開く。試合終了間際には、奥野からRB山口に17ヤードのパスが決まってTD。普段の練習から山口や西野らランニングバック陣にパスキャッチの練習をさせていた成果が見事に現れた。
 以上のように書いていけば、試合会場に行けなかった読者は今季のファイターズも期待できるチームだと思われるに違いない。しかし、関西リーグの強敵や関東のライバルチームを見据えれば、そうした判断は早すぎる。まだまだ発展途上のチームだし、伸ばしていかなければならない点はいくつもある。そのあたりのことは次回以降に書くことにして、今日はQB奥野が十分に使えること、K安藤に安定感が出て、今季はキッキングチームにも期待が持てること、そしてQBやRBをレシーバーとしても使うという「大阪商人の知恵」が成功したことだけを強調しておきたい。
«前へ 次へ»

<< 2025年7月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

ブログテーマ