石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(7)躍動する新戦力

投稿日時:2024/09/05(木) 17:26

 3日はファイターズの今季、開幕日。迷走した台風が8月末には近畿地方を直撃するという予報が出たことから、1日に予定されていた今季の初戦、桃山学院大との試合日が急遽変更され、3日午後7時キックオフとなった。
 会場となった万博公園の球技場周辺は闇に包まれ、グラウンドだけが明りに包まれている。平日の夜とあって、観客も少ない。
 なんとも寂しい光景だったが、1試合目の立命と大阪大との試合が終わり、ファイターズの面々がグラウンドに出てくると空気が一変。一気に試合モードが高まる。そんな中、場内限定のラジオ放送で試合の実況と解説を担当され.る小野さんから頂いたチームのメンバー表を眺め、試合前の練習をしている選手と背番号を確認する。なんと、今春入学したばかりの1年生が3人も先発に名を連ねている。QBの星野弟(足立学園)、DLの田中志門(追手門学院)、DBの豊野桂也(啓明学院)である。それぞれ春のシーズンから出番があり、1年生とは思えないほどの存在感を見せていたが、秋の初戦からスタメンとは驚いた。
 ファイターズのキックで試合が始まる。だが、ファイターズの守備の最前列が強くて素早い当たりで相手を押し込み、あっという間に攻守交替。この主役が1年生ながら春の試合から右のDLとしてスタメンを張っている田中志門というのだから、ファンとしては驚きと喜びで一杯だ。このチャンスを追手門高校の先輩で今は堂々のエースRB伊丹が生かしてTD。続く相手の攻撃も主将を務めるLB永井兄を中心にした守備陣が完封。相手に付け入る隙を与えない。
 ファイターズの2度目の攻撃は自陣38ヤードから。まずはランアタックで陣地を稼ぎ、守備陣の注意をラン攻撃に向けた瞬間にQB星野からWR小段へミドルパス。それが決まってダウンを更新。仕上げは星野のQBキープ。左サイドライン沿いを39ヤード、一気に駆け上がってTD。14-0と引き離す。
 こうなると、完全にファイターズペース。守備陣は相手にダウンを更新させず、攻撃陣は攻撃権をとるたびにTDで締めくくる。まずは遠投は兄貴以上という星野が小段へ50ヤードのパスを決めて3本目、RB澤井のランで陣地を稼ぎ、WR川崎へのミドルパスで4本目のTD。第1?だけで27-0と引き離す。
 第2Qに入っても、ファイターズの攻勢は続く。K 大西のフィールドゴールに続いてRB井上孝が立て続けに2本TDを奪い、前半だけで44-3。
 勝ち負けとしての興味はこのあたりで薄れたが、それでもお互いの選手が全力で戦う姿は美しい。相手チームに渾身のプレーが出れば、思わず拍手を送り、自軍の選手が目覚ましいプレーをすれば、それを上回る拍手を続ける。
 とりわけ、今春入部したばかりの1年生やこれまで出番の少なかった2年生が活躍する姿を見られるのが楽しい。前者でいえば、少ない出番で立て続けに2本のパスを受け、都合58ヤードを稼いだWR立花(箕面自由出身)や後半だけの出番だったが、素早い動きで4回72ヤードを走ったRB平野(啓明学院)や高等部で主将を務めたLB永井弟の動きも頼もしかった。後者でいえば、春のJV戦で活躍した2年生RB松村や深村の今後も注目される。
 最初に紹介した1年生のQB星野弟やDL田中志門を含め、期待の下級生が今後、どんな活躍をするのか。それを受けて立つ上級生が自らの可能性をどこまで開拓できるのか。今後のチーム内競争の激しさを予感させる初戦だった。

(6)「君の可能性」

投稿日時:2024/06/12(水) 14:23

 最近、ファイターズの試合や練習を見るたびに、懐かしい先生の顔と、その著書のタイトルとなっている詩が浮かんでくる。すでに何度か書いたことがあるが、日曜日の試合を見て改めて記したくなった。
 それは群馬県の小学校を舞台に、子どもを主役にした独自の教授法を展開し、教育界に大きな足跡を残された斎藤喜博先生(1911~1981)であり、その代表的な著書「君の可能性」(筑摩文庫)に収録されている「一つのこと」という次のような詩である。

 一つのこと

 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 響きわたる心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 この詩の後に、先生自身の説明がある。
 「この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それはちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょにのぼってきた人たちとしみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていまのぼって来た道を、人が続いて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えている。こんどはあの山を登るのだ、という意味である」
 「学校の学習は、こういうことを、みんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。(中略)そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力を合わせて学習をしていくのである。学校での学習、クラスでの学習とはこういうものである。ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである」
 先生は群馬県伊勢崎市近郊の小規模な小学校(島小学校、境小学校)で校長を務め、その教育実践で教育界に知られた教育者である。小学校長を定年で退職された後、宮城教育大学から招かれ、教育学の教授としても活躍された。その教育実践の成果を数多くの著作にまとめ、全集も出版されている。土屋文明に師事した歌人としても知られている。
 僕は1970年12月、信濃毎日新聞から朝日新聞に移って前橋支局に勤務。前橋市政と文化欄を担当した時に「上毛歌壇」の選者をされていた先生とのご縁が生まれた。ほんの半年ほどの間だったが、その間、10回近くご自宅を訪問し、先生が主宰される教授学の勉強会に参加したり、個人的に指導を受けたりしてきた。
 そうしたこともあって、この詩の意味することは十分に理解できたし、新聞記者としても、この詩にあるように、一つの山を登るごとに、新たな山にチャレンジしていこうと胸に刻んで生きてきた。
 長い前書きとなったが、いま、ファイターズの諸君が日々取り組んでいることも全く同様であろう。日々、自らに課題を与え、それを一つ一つクリアしていく。階段を一つ上がったら、また異なる景色が見え、そこから新たな目標が生まれる。それを一つ一つクリアしていくことで、気がつけば当初は想像も付かなかった景色が見えてくる。それを仲間と励まし合い、競いながら達成していく。
 その繰り返し。日々の練習ではその成果が見えなくても、いざ、ライバルと対峙したときに、その間の努力と頑張りが生きてくる。
 ファイターズでの活動とは、いわば、その景色を見るための活動と断定してもよいのではないか。両親から頂いた才能、身体能力だけではなく、自らが意図して成長し、仲間もまた成長させる。
 毎年、力のある4年生が卒業しても、新しい年には新たな戦士を育て、育って行く。常に新たな目標に向かって、全員が努力を重ねる。その積み重ねにこそファイターズの魅力がある。
 関西大、立命館大という力のあるチームを相手に、新鮮なメンバーで戦い抜いた今季のファイターズに接して、僕はそんな思いを深くしている。
«前へ 次へ»

<< 2025年6月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

ブログテーマ