石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(29)魂のドラマ

投稿日時:2018/12/03(月) 06:42

 ファイターズが劇的な逆転勝利をつかんだ後、選手に一言掛けたくてグラウンドに降りた。しかし、全員で試合終了後の挨拶を終えたばかり。まだ新聞記者やテレビ局のヒーローインタビューが続いているさなかでもあり、なかなか個々の選手には声が掛けづらい。
 とりあえず、手の空いたコーチに「ありがとうございました」と片っ端から声を掛ける。「勝ったのは良かったけど、素直に喜べませんね」という渋い表情のコーチもいるし、感極まったような表情をしているコーチもいる。それぞれ担当している部署の出来不出来を目の当たりにし、さらにこれからの試合を見据えているからこその反応だろう。
 そんな中で、一人「オフェンスは新喜劇みたいやったな」と話し掛けてきたコーチがいる。自他共に許す吉本新喜劇のファンで、普段から「新喜劇は奇想天外。その面白さが分かって初めて、臨機応変、いいプレーヤーになれる」と言い続けているコーチである。
 一瞬、「なんで新喜劇」という表情をすると、「うちのディフェンスは元々、新喜劇やったけど、今日の試合はオフェンスも新喜劇やった」という言葉が続いた。
 その言葉の意味が解せないまま、何とか会話を続け、しばらくしてからその意味を考えた。多分、そのコーチは「新喜劇」という言葉に次のような意味合いを含めていたのだろう。
 「吉本新喜劇は常に前半がドタバタ。番組の終わるまでにどのように収拾するか訳が分からん」「けれども最後はいつものお約束の通りに物語の収拾がついて、見ている方もめでたしめでたし。腹を抱えて笑っているうちに、目出度く番組はお開きになる」と。
 このお約束をこの日のオフェンスに当てはめると、試合の途中まではインターセプトが3回、うち1本はそのままタッチダウン。ファンブルで攻撃権を奪われた分を合わせると、ターンオーバーが4つという、近来にないドタバタ劇だった。しかし、物語の後半になると、それぞれの役者がしっかり役割を果たして劇の進行を支え、気がつけば最後のプレーで逆転サヨナラ勝ち。見事な大団円に仕上げている。この試合を形容するには、喜劇という言葉も悲劇という言葉も似合わない。余りにも結末が鮮やかすぎて人情劇と呼ぶのもためらわれる。ここはやっぱり新喜劇。「ファイターズファンのすべてが喜びの涙を浮かべる新喜劇」と表現するのが一番だろうと勝手に納得した。
 めちゃくちゃなローカルな話で前置きが長くなった。本題に入る。
 12月2日、晴れ渡った万博記念競技場で開かれた西日本代表校決定戦、立命館大学と関西学院大学の試合は、スポ根漫画も顔負けのドラマチックな幕切れとなった。
 ファイターズは前半からリードされ、第3Q終了時点でも16-10と立命がリード。その後、4Q途中にもだめ押しとも思えるFGを決められ、19-10と差が広がる。
 起死回生の一発に賭けようとしても、エースランナーの山口は負傷で退場。エースレシーバーの松井も足を引きずっている。QB奥野のパスで突破口を開きたいところだが、前半から手痛いインターセプトを3発も食らっている。おまけに随時、交代出場し、プレーの選択肢を広げていたQB西野もベンチに下がっている。
 残り時間は7分56秒。ボールは自陣25ヤード。さてどうする。まずは奥野から同学年のWR鈴木に6ヤードのパス。一つおいて次のプレーもWR阿部へのパス。それが見事に決まって相手陣45ヤード。よしっ、と思った瞬間、ホールディングの反則で10ヤード後退。ヤバイ、と思った瞬間、奥野がスクランブルで一気に陣地を回復。あらためて敵陣34ヤードからの攻撃につなげる。
 ここで交代したQB光藤がまたもや17ヤードのスクランブル。相手の反則もあって一気に相手ゴールに迫る。再び光藤が走ってゴール前1ヤードに攻め込んだ後、仕上げはRB中村のダイブで19-17と追い上げる。
 残り時間は3分44秒。相手攻撃を絶対に3&アウトに押さえなければならない局面だ。奮起した守備陣が鉄壁の守りを見せて攻撃権を奪い返す。そのときボールは自陣41ヤード、残り時間は1分56秒。何とかフィールドゴール圏内までボールを持ち込みたいが、残された時間は少ない。
 さてどうするか。ここでも突破口を開いたのは奥野からWR陣へのパス。松井、そして阿部へとミドルパスを立て続けに通し、一気に相手ゴール前12ヤードに迫る。
 ここからはRB渡邊を走らせて時間を消費。残り2秒となったところでK安藤にチームの命運を託した。恐ろしく緊張する場面だったが、安藤が見事に24ヤードのFGを決め、劇的な逆転サヨナラ勝ちを手にした。
 この場面、距離は短かったが、この一蹴りにチームの命運がかかっている。キッカーの安藤はもとより、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡も、さらにいえばキッキングチーム全員の胸中が波立っていたに違いない。けれども、11人がそれぞれの役割を完璧に全うして勝利を呼び込んだ。
 振り返れば、故障明けの4年生レシーバー松井と小田が局面を打開し、それに呼応して同じポジションの阿部が神がかり的な捕球を続ける。試合の終盤、ここぞという場面で登場した主将・光藤の必死のプレーがチームを奮い立たせる。上級生をここで終わらせてはならない、と腹をくくった奥野が前半とは打って変わって正確なパスを投げ続ける。スクランブルで局面を打開する。
 こうしたオフェンスの必死懸命のプレーに守備陣が呼応。4Qに入ってからは厳しく思い切りのよいタックルで相手の攻撃の芽をことごとく摘み取っていった。
 試合の前日、練習後のハドルで主将が叫んだ言葉が耳に残っている。「こんなところで終わってなるものか、俺たちは日本一になるんだ」。その言葉を苦しい試合展開の中で思い出し、グラウンドに立つ全員が体を張って共有したからこその勝利である。吉本新喜劇では、ここまでのストーリーは描けない。ファイターズならではの魂のドラマであると僕は思っている。
 さて、次は甲子園。もう一丁、気合いを入れて頑張ろう。

(28)檄文

投稿日時:2018/11/28(水) 01:06

 「2018FIGHTERSの挑戦に参戦お待ちしております」という檄文がファイターズのディレクター補佐、石割淳さんから届いた。
 12月2日に迎える立命館大学との今季最終決戦を目前に、ファイターズOB会のメンバーらに宛てた、いわば決起文である。
 この檄文を読む直前、僕もまた幕末に活躍した長州藩士であり、奇兵隊開闢(かいびゃく)総督でもある高杉晋作が元治元年(1864年)12月、拠点にしている長州・功山寺で開かれた奇兵隊幹部会議で長州藩の正規軍相手に決起を呼び掛けた時の言葉を思い浮かべていた。
 「1里行けば1里の忠、2里行けば2里の忠。たとえ反逆者と呼ばれようと、それが僕の忠節じゃ」。「真(まこと)があるなら今月今宵。明けて正月たれも来る」。
 先週の関西リーグ最終戦は、強敵・立命を相手に勝利を手にした。だからといって、その2週間後の戦いとなる西日本王座決定戦でも勝てるという保証はどこにもない。「絶対にやり返してやる」と牙をむき、全力で立ち向かってくる相手に一歩も引かず、持てる力を100%発揮して初めて、互角の戦いになると見るのが順当だろう。
 実際、リーグ戦の勝者と敗者が逆の立場になった昨年は、リーグ戦で敗れたファイターズが決死の覚悟で戦い、なんとか代表決定戦で勝利することができた。1昨年は、リーグ戦で勝利したファイターズが代表決定戦でも前半、大きくリードしたが、後半は一気に追い上げられ、最後まで勝敗の行方が分からない激戦となった。
 そういうライバルとの戦いである。チームが一丸となり、全員が気力、体力、技術のすべてを発揮して戦わなければ、展望は開けない。どんなに苦しい局面でも、全員が「1歩前に」という気持ちをぶつけなければ戦争にならないのだ。文字通り「1歩進めば1歩の忠、2歩進めば2歩の忠」である。
 とりわけ大事なことがある。攻撃、守備ともに、どんなに苦しい時でも耐え忍び、局面を打開する道を見つけることだ。「真があるなら今月今宵。明けて正月、誰も来る」という言葉がその機微を表現している。
 これを試合に置き換えて解釈すると「苦しい時に突破口を開いてこそ意味がある。点差が開き、試合の行方が見えてからなら、誰でも活躍できる」という意味であろう。
 つまり、先日の立命戦でいえば、先制の独走TDを決めたRB山口の動きであり、彼のために進路を開いたOLの諸君、ブロッカーの役割を果たしたレシーバー陣のプレーがそれに相当する。あるいは絶妙のタイミングで正確なパスをレシーバー陣に投じたQB奥野、そのパスを見事にキャッチし、そのままTDにつなげたWR阿部と小田。奥野に代わって随時出場し、相手守備陣を幻惑したQB西野と光藤。
 相手攻撃を素早い動きと激しいタックルで食い止め続けたディフェンス陣の動きもそれに該当するし、終始、的確なパントを蹴って陣地を回復し続けたキッキングチームの活躍も忘れてはならない。
 彼らはすべて「真があるなら今月今宵」と参集したメンバーである。
 その気持ちを12月2日に控えた決戦で、もう一段高められるかどうか。
 そこに勝敗の分岐点がある。
 先週末は、和歌山知事選などの関係で上ヶ原まで練習を見に行くことはできなかった。だからいま、チームがどんな状態にあるかは分からないし、報告もできない。けれども、遠く離れていても激励の言葉は送れる。
 そう思って僕が思いついたのが高杉晋作の「真があるなら今月今宵」であり「1里歩めば1里の忠、2里歩めば2里の忠」という言葉である。
 1歩でもいい、2歩でもよい。2018年度ファイターズのすべてをかけて進んでもらいたい。「真があるなら今月今宵」という覚悟で決戦に臨んでこそ、道は開ける。
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