石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2020/11

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(10)諦めない、絶対に

投稿日時:2020/11/30(月) 09:44

 「勝負は下駄を履くまで分からない」という言葉がある。それはその通りだが、この言葉のポイントは、それに続く「だから、どんなに苦しくても諦めたらあかん」にある。
 28日、万博記念競技場で行われた立命館大学との決戦がま、さにその言葉を証明するような試合だった。
 関学のキック、立命のレシーブで始まった試合は、立ち上がりから立命館のペース。強力なラインがファイターズ守備陣に圧力を掛け、主将の立川がパワフルな走りで陣地を稼いでいく。わずか6プレーでゴール前10ヤード。そこで投じられたパスをDB北川が奪い取り、なんとかピンチをしのぐ。
 しかし、相手の勢いは止まらない。相手陣39ヤードから始まった次のシリーズもパワーで圧倒し、わずか10プレーでTD。ゴールも決まって7-0。
 なんとか挽回したいファイターズだが、なんせ相手の守備陣が強力だ。ライン戦を支配し、ファイターズの強力RB陣に走る隙を与えない。それでも怖めず臆せず、守備も攻撃も相手に立ち向かっていく。
 守備の第一列が相手QBに襲いかかって攻撃を食い止めると、ファイターズはRB三宅、前田のランで陣地を進める。仕上げはQB奥野からWR鈴木へのパスでTD。普段から「僕ら仲がいいんです」と公言し、常に行動を共にしているコンビが息の合ったところを見せる。K永田のキックも決まって同点。苦しい試合を振り出しに戻す。
 しかし、地力のある相手は一向に動じない。第3Qの第一プレーでファイターズのパスを奪い取ると、わずか3プレーでTD。再び14-7として主導権を握る。守備陣はパスを奪い取り、攻撃陣は強力なランアタックで前進する。
 なんとか追いつきたいファイターズは、自陣9ヤードから粘り強く攻め続ける。三宅、前田、鶴留という3人ランナーを使い分け、合間に鈴木へのパスを織り込んで、なんとかFG圏内まで持ち込み、永田のFGで14-10。TD一本で逆転というところまで持ち直す。
 これに守備陣が応える。続く相手の第一プレー、QBが投じたパスをDBの2年生山本がインターセプト。直ちにファイターズに攻撃権を取り戻す。TDにはつなげられなかったが、それでもK永田が冷静にFGを決めて14-13。1点差にまで追い上げる。
 しかし、そこで立命の攻撃陣が覚醒。主将立川のランでぐいぐいと陣地を進める。守備陣は相手の攻撃パターンが予想されていても、それが止められない。相手陣12ヤードから始まった攻撃はラン、ラン、ランと進み、あっという間にゴール前4ヤード。ファイターズが知能と体力、精神力の限りを尽くして手にした6点があっという間にひっくり返される場面に直面した。
 残り時間は4分少々。ここでTDを決められると、勝敗はほぼ決まってしまう。
 「あかん、なんとか踏ん張ってくれ」と神に祈るような気持ちで見ていると、やってくれました。DB竹原が相手が投じたパスを狙い澄ませたようにゴールライン際で奪い取り、絶体絶命のピンチを逃れた。
 そこから互いにパントを蹴り合って迎えたファイターズの攻撃。しかし、ボールは自陣32ヤード。残り時間は1分42秒。タイムアウトはあと1回。ここで奥野が選んだのは、日頃からともに練習しているレシーバー陣。鈴木への長いパスをピンポイントで決めて、相手ゴール前32ヤード。そこから糸川、鈴木に連続してパスを決め、ゴール前9ヤード。その後は、これまた信頼するRB前田と三宅にボールを渡して時間を進める。FGに一番都合のよい場所にボールを持ち込み、すべてを永田に託す。
 このキックが成功すれば、逆転勝ち。失敗すれば、地獄を見る。そういう場面で永田がしっかり足を振り切ってボールを蹴り、見事なFGがゴールポストの真ん中を抜けて行く。
 素晴らしい勝利だった。
 しかし、それはチームの全員が最後まで諦めずにプレーした結果だった。相手に圧倒されて不利な局面になっても、絶対に諦めず、仲間を信じて自分のプレーをやりきる。相手の力が上回っていることを目の前で見せつけられても、ファイターズで培ってきたことを信じて、黙々と自らの務めを果たす。グラウンドに立つ11人が常に結束して相手に立ち向かい、自らの能力を最大限に発揮する。
 そういう姿勢があったからこそ、終始押しまくられていた戦局を挽回し、自分たちのフィールドにすることができたのだろう。
 こういう「無私の精神」「無私のプレー」の積み重ねに勝利の女神が微笑んだ。泥臭くても美しい勝利である。おめでとう。

(9)濃密な時間

投稿日時:2020/11/25(水) 09:32

 このところ、西宮に帰宅するたび、近所におわす神々にお参りし、お祈りを捧げている。一番身近なのは、旧段上村の若宮八幡神社。立派な松林に囲まれた静かなたたずまいの「お宮さん」であり、散歩の途上に立ち寄っては、賽銭を投じてファイターズの勝利を祈っている。
 子どもの頃、わが家のすぐ裏手の山にも「戦いの神様」として近所の人たちから信仰されていた八幡さまがあり、正月の注連飾りを奉納するのがわが家の役割だった。小さなお宮だったが、毎年1月19日には餅撒きもあり、田舎の小学生にとってはそれが一大イベント。そんな頃から親しんでいる神様だから、いまだに願い事となれば、まず八幡神社が思い浮かぶ。
 もう一つのお宮は仁川の弁天池に近い高台にある熊野神社。現在、僕が働いている和歌山県田辺市におわす熊野本宮大社とのご縁もあって、これまた散歩の途上にお参りするのが楽しみだ。住宅街の中にあるとは思えないほどの雰囲気のあるお社であり、急な階段を上るだけで、世俗の塵が払われていくような気持ちになれる。
 ここでもお祈りするのはファイターズの勝利。なんだか節操がない気もするが、もう一つ関西学院大学の学生会館から第3フィールドに向かう途中にある上ヶ原の八幡様にも、もちろん頭を下げる。ここは第3フィールドが開設されて以来、毎年この時季にお参りしている地元の神様であり、不信心者の僕でも、特別に気合いが入る。
 そして仕上げが第3フィールドを見晴らす平郡君の記念樹と彼への誓いの言葉を記した銘板。その言葉をじっくり読み上げ、在りし日の彼を偲びながら、彼がいまも勝利に向かって全力で取り組んでいる後輩たちを見守ってくれていることに感謝の気持ちを捧げる。
 彼こそ僕がファイターズを目指す高校生に小論文の指導を始めた第1期生。今は追手門学院で教鞭をとっている池谷君とともに、朝日新聞大阪本社の喫茶室や地下の食堂でケーキとコーヒー、あるいは紅茶を注文して勉強会を重ねたのも懐かしい思い出だ。
 彼もまた黄金期の立命館を相手に「打倒立命」を胸に刻み、全身全霊で立ち向かっていった勇士である。顔つきはとてつもなく柔和だが、いったんグラウンドに出れば、ファイターズと言う言葉が誰よりも似合う彼のことを思い出すと、懐かしく、また胸が熱くなってくる。
 なんだか、話が脇道にそれてばかりだが、本筋に戻る。
 11月28日、今週土曜日は、待ちに待った立命館との決戦。4年生はもちろん、チームの全員が待ち望んでいた戦いであり、この1年間のすべてをぶつける試合である。
 今季は新型コロナウイルスの感染拡大で練習はもちろん、課外活動のすべてが長期間、停止される事態に直面したが、それでも選手・スタッフ、そして監督・コーチを中心にしたチーム関係者の努力、それに物心両面で支援していただいたOB会の協力で、なんとか関西リーグの頂点を競うところまでこぎ着けた。
 その間、練習時間やグラウンドに入れる人数の制限など部の活動には数々の制約があり、チームの全員がかつてない苦境に立たされた。その制約は現在も続いている。例えば、練習の途中、一定の時間ごとに全員に手指の消毒を義務づけているのもその一つ。せっかく練習が盛り上がってきたところでそれを中断。全員が新品のマスクを着用し、オフェンスとディフェンスのメンバーが分散して消毒に向かう行列を見るたびに「本当に大変だ」という気持ちになる。
 そうした苦労をすべて乗り越えて迎える決戦である。前例のない1年間、耐えに耐えてきた濃密な時間をぶつけてもらいたい。目の前に立ち塞がる強敵に一歩も引かずに戦ってもらいたい。
 練りに練った戦術もあるだろうし、相手の分析もそれなりにできているだろう。けれども相手もそれ以上に準備を整えているはずだ。ここ20数年間の両チームの戦いを思い出せば、そうは簡単に勝てるチームではない。
 そんな強力なチームを相手にどう活路を開くか。全員が結束し、火の玉になって立ち向かうしかない。過去には、絶対的に相手が有利と言われた状況を跳ね返して勝った学年もあるし、逆にちょっとした手違いで敗れた学年もある。リーグ戦で苦汁を飲まされながら代表決定戦で勝った試合もいくつもある。不思議の負けはあっても、不思議の勝ちはない。勝つべくして勝つためには、チームに名を連ねるメンバー全員がそれぞれの役割を果たせるかどうかにかかっている。
 まだ、時間はある。互いにもたれ合うことなく、全員が最後の最後まで準備を徹底し、詰めるところを詰めて、試合に臨んでもらいたい。濃密な時間を重ねれば、その分、喜びも大きくなるはずだ。存分に戦い、存分に勝ってもらいたい。天に向かって拳を振り上げ、勝利の雄叫びをとどろかせてもらいたい。
 健闘を祈る。
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