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川口仁「日本アメリカンフットボール史-フットボールとその時代-」

#45 フォーク・フットボールの進化 ― ボールをめぐって

投稿日時:2013/07/10(水) 19:29rss

 現在、プロ野球は統一球の弾性とその導入手続きをめぐってかまびすしい議論が続いている。今回の件でまたも顕著になったが、NPB組織の根本にある前近代的隠蔽体質についてはあいも変わらない。戦前の旧軍部幹部が最前線を無視し、指令を出した行為に似ている。最も利害の大きい選手会がもっと発言すべき問題であろう。身びいきになるがフットボールでは試合前に審判が使用するボールの空気圧を確認するので上記のようなことが起こる可能性は極めて低いと思われる。

 メジャー・リーグでは人気が落ちるとよく飛ぶボールを使用するということが過去に何回かあった。1919年、シカゴ・ホワイト・ソックス事件が起こる。ワールド・シリーズでの八百長疑惑である。このできごとは映画『フィールド・オブ・ドリームス』にも登場する。20世紀初頭からベースボール賭博にからむギャングたちの存在は問題となっていた。そう言ったことが大いに影響し当然のこととしてベースボール人気は凋落した。

 「攻撃が観客を呼び、守備で勝つ」と言われる。これはスペクテイター・スポーツ、つまり観戦型スポーツに良く当てはまる。そこで事件の翌シーズン、1920年、飛ぶボールが使用された。結果、ベーブ・ルースは1シーズン、54本の本塁打を放ち、ベースボール人気が回復したという。ルースがボストン・レッドソックスからニューヨーク・ヤンキースに移籍した年であった。ついでながらルースは投手においても非凡な才能を発揮し、現在の北海道ファイターズ、大谷翔平のように攻守両面で活躍した時期があった。

 1950年代後期から60年代にかけて、やはり飛ぶボールが使用された。ヤンキースのミッキー・マントルとロジャー・マリスが活躍し、二人の頭文字をとってMM砲と呼ばれ人気を博した。マリスは‘61年に61本のホームランを記録し、ベーブ・ルースの1シーズン記録を塗り替えた。同年マントルも54本のホームラン打っている。ただルースの時代は1シーズン154試合でであったがマリスの時代は162試合制であった。そのためルースの信奉者はマリスの記録を参考記録だとしている。

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 さて、フットボールのボールについて。上記上段の球体に近いボールは1888年の広告である。右横にラグビーという文字が見える。フットボールの父とよばれるウォルーター・キャンプが1880年代前半に現在のルールの元となった規則の整備を行った。しかしボールはラグビーのものを使用している。まだフォワード・パスが認められていない時代だった。

 下段のボールは1905年の使用球である。スポルディング社発行の本の表紙の写真である。この翌年、1906年からフォワード・パスがルールで認められた。スポルディング社はスポーツ用具を扱うとともに普及活動のために出版部門も持っていた。創業者のアルバート・スポルディングはベースボールのプロ・プレーヤーとしてもめざましい活躍をし、1878年、28歳で引退した。その後1888年から1889年にかけて、ベースボール普及のためシカゴのチームを率いて世界一周を行った。

 フットボールの記録が残る12世紀より現代に至るまで、当初豚の膀胱から作られた球体のボールから現在のアーモンド型に向かって改良が続いた。ご存じのようにボールの扱いを容易にするためNFLの使用球はカレッジのボールよりひとまわり小さく作られている。

 #1で触れたが1863年にサッカー協会ができるまでの先史時代は、folk footballまたはmob footballとも呼ばれた。この民俗フットボールと訳される競技は現在のサッカー、ラグビー、プロレス、ボクシング、その他もろもろの競技がないまぜになった混沌とした集団格闘技だった。従って時には死者が出ることもあった。ラグビー、プロレスの要素が含まれていたため多くのゲームは手を使っており、サッカーのように足のみを使うことは少数派であった。

 この民俗フットボールは現在でもイギリスのアッシュボーンという名の町で毎年行われている。そのルーツは1660年代にあるとされている。またイタリアのフィレンツェでは毎年、6月にカルチョ・ストリコと呼ばれる16世紀から続く競技が行われている。市を4つの区域に分け、区域対抗の全市挙げての熱狂的なイベントとなっている。カルチョ・ストリコは「歴史的フットボール」という意味である。日本でカルチョはトト・カルチョという言葉により広く知られるようになった。下記は14世紀のロンドンで行われた民俗フットボールのイラストである。

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