石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(31)見届ける人

投稿日時:2013/11/19(火) 06:19rss

 時は晩秋。上ヶ原のキャンパスは日ごとに紅葉が進んでいる。日本庭園のカエデは赤く色づき、中央芝生の回りを取り巻くピラカンサの実も赤くなってきた。社会学部と文学部の間の広場にあるイチョウも黄色くなって秋の日差しに映えている。
 第3フィールドの入り口近くにあるアメリカ楓の葉っぱは真っ赤になって散り始め、野球場のコンリート壁を覆うツタも秋色になった。「つるべ落としの秋の暮れ」というが、日が暮れるのも早い。甲山から吹き下ろす風は、真冬のような冷たさだ。
 グラウンドに目をやれば、チーム練習の2時間も前から試合を担うQBとWRがパスの練習に励んでいる。日に日に完成度が上がり、投げる方も受ける方もほとんど失敗することがない。片隅では、攻守のラインがダミーに向かってヒットの練習。みんな真剣そのものだ。シーズン当初とは違って、明らかに体も表情も引き締まっている。
 4時限、5時限まで授業のある2年生や1年生がかさばる防具を肩にグラウンドまでの坂道を駆け上がってくるのも、この季節ならではのこと。シーズン当初、仲間とのんびり談笑しながらゆっくりと集まっていたころの甘ったれた面影は、もうどこにもない。
 こういう季節になると、それは例年のことだが、このメンバーたちがそろってプレーできるのは、もうほんの短い期間しかないことを実感する。もちろん人生は長い。大学時代の仲間は、かけがいのない存在として、これからも生涯のつきあいが続くだろう。でも、このメンバーでプレーできるのは、最長でも1月3日まで。それが分かっているから、その短い時間がいとおしくてならない。それは横から見ている僕の勝手な感傷だが、実際にグラウンドに立っている部員にとっては、もっともっと感じることの多い時間だろう。
 だからこそ、監督やコーチはもちろん、アシスタントコーチを務める先輩たちを含め、言葉の一つひとつ、所作のひとつ一つにメリハリが生まれてくる。プレーの流れは秒刻みになり、ハドルへの集散は自然に早くなる。スタッフを含め、みんなが自発的にその場に必要な行動をとるから、もう怒鳴り声が聞こえてくることもない。張り詰めた空気、透明な空間があるだけだ。
 そういう場に居合わせると、僕にできることはほとんどない。元々、チームを「見守る人」というのが、僕の立ち位置だが、この時期になると顔を合わせた選手に少しばかり声を掛けるだけで、気持ちは通じる。
 代わりに思うことはただひとつ。勝っても負けても、僕はこのチームを見届け続けよう、ということだ。
 ファイターズを応援して下さる方は、どのチームよりも多い。スタジアムに足を運ぶだけでなく、合宿と聞けば差し入れをして下さる方、支援金を集めてチームに贈って下さる方々も多い。もちろん、OB会長は率先して激励に来て下さる。
 そんな中で、少しばかり社会経験の豊富な年長者として、僕に出来るのは、ひたすら選手たちを見守ること。部員の動きを細かく見届けること。そして、見届けた結果をこういう場を通じて記録しておくことである。
 2013年、池永主将を中心とするチームは、確かに一丸となって戦う態勢を整えた。僕はそれを見届けた。たったこれだけの言葉ですべてが言い尽くされている。
 あとは、心置きなく戦うだけ。今までやってきた取り組みに自信を持ち、仲間を信頼する。それだけでいい。
 相手がいかに強力であろうと、死にものぐるいの戦いを挑んでこようと、そんなことは関係ない。ひるまず、臆せずに戦い続ければ、必ず道は開ける。諸君が勝者の名にふさわしい取り組みをしてきたことは、この1年間、じっくりと見せてもらった。
 11月24日、長居スタジアム。「ファイト オン」の歌詞にある通りの戦いを期待する。
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